「帰る前に一つ。最近死tゲフンゲフン・・・通り魔が横行しているのでくれぐれも夜出歩かないようにな。特に乾!」

「俺ッスか!?」

「お前の事だから死にはしないだろうが怪我くらいはしかねないからな」

「遠野の心配は」

「え?僕?」

「無いな。有り得ない。遠野を襲う奴は無限にいても怪我を負わせる事のできる奴なんて一握りだぞ?こいつのラックは最大値を振り切っているに違いない」

色々言ってるけど、さっき死徒って言いかけなかったかな?

この教員って本当に何者?

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「志貴。お姫さんの所に行くのよね?乗りなさい」

校門から出てすぐの所にお姉ちゃんが車を待機させていた。

「うん。ありがとう・・・でも、どうかしたの?」

なんだかお姉ちゃんの表情が硬い気がする。

「・・・できれば志貴をこの件に関わらせたくはなかったのよ」

「え?」

「志貴か七夜・・・どちらかが必ず人を殺さなければならなくなる・・・最悪志貴が人を殺すなんてことが・・・」

どういう事?

「志貴。詳しい事はお姫さんから聞くと思うけど、お姫さんはある死徒を追っているの。相手は無限転生の魔術師・・・

その無限転生者を殺す事のできる眼を保つ志貴達を使おうとしているのよ」

???

僕は首を傾げる。

「その相手を隔離しちゃったら駄目なの?」

「相手は無限転生者であり、魔術師としてもかなり強いのよ?」

「制止した空間に隔離するとかは?」

「・・・できたら苦労しないわ」

「それじゃあどう対処するかは資料見てからじゃないと分からないよ・・・」

「志貴」

「ゼルレッチさんは何も考えなしに仕事を振ってきたりしないと思う。それにアルクェイドさんの護衛がお仕事なんだよ?相手の抹殺じゃないよ?」

「―――」

お姉ちゃんは小さく息を吐いて首を振る。

なんだか諦めたような、そんな顔だ。

「あと、アルクェイドさんがあんな調子だったら・・・僕、攻撃どころか護衛すらさせてもらえないんじゃないかと思うんだけど・・・」

「───確かに。アレは一目惚れという範疇をぶっちぎっているわね・・・忌々しい事に」

お姉ちゃん。眼鏡掛けているのにちょっぴり怖いよ?

どうしてそんなに殺気立っているのか聞いたら、

「志貴を学校に連れて行った後、アレが志貴を追っかけようとしたらしくてね・・・アレを抑えるのに本気で武力行使しようとしたのよ」

どうやら今現在も監視中とのこと。

先生、式さん・・・・後でいっぱいごめんなさいとありがとう言わないと・・・

「お姉ちゃん」

「ん?」

「お姉ちゃんにも迷惑掛けちゃってごめんなさい」

「これくらい迷惑のうちに入らないし、志貴のわがままならどんな無茶なものでも受け止めてみせるわ」

不敵に笑うお姉ちゃんが凄く格好良くて思わず「格好いい」って言ってしまった。

そしたら途端に凄くだらしない緩みっぱなしの笑顔になってしまった。

 

 

「し〜き〜」

僕がアルクェイドさんの部屋に入ると同時にアルクェイドさんがもの凄い早さで襲いかかってきた。

うん。襲いかかってきたとしか言いようがない。

だってアレ受け止めたら僕死ぬと思うよ?

身の危険を感じた僕が取った行動は回避だった。

「え?えええっ!?」

驚くアルクェイドさん。

そして――――

「止まらないっ!?」

当たり前だけど勢いを殺す事ができなかったようで、そのまま落ちていった。

「落ちっ!?」

「大丈夫よ。志貴・・・アレで怪我を負うような相手じゃないのよ」

「そうだぞ。志貴・・・安心しろ。どうせすぐに戻ってくる」

先生も式さんもすごくくつろいでいるんだけど・・・お茶とお茶菓子まで・・・

「朝もベランダから飛び降りて逃げようとしたしな」

「追われた魔術師がよくやる事よ。お姫さんは制御しなくても問題なさそうだけど」

「やはり足を斬って正解だったのか・・・」

「私も最悪周辺を破壊し尽くすつもりだったからアレで正解ね」

なんだか恐ろしい会話が飛び交っているんだけど・・・

「どうして避けるの!?」

あ、本当に戻ってきた。

「だって避けないと僕大怪我どころか死んでいたかも知れないんですよ?」

もしかしたら死なないかも知れないけど。

「う〜〜〜〜っ」

アルクェイドさんは不満そうに唸る。

まるで子供みたいだ。

「アルクェイドさん」

「え・・・?」

僕はアルクェイドさんの顔を両手でしっかりと挟み込む。

「僕を殺したかったんですか?やっぱり僕のこと恨んでいるんですか?」

あれ?なんだかアルクェイドさんの顔がみるみる青ざめて・・・

「ち、がう・・・・志貴」

あれ?

「アレは致命傷だな・・・言われたら絶対に立ち直れないぞ?」

「同感・・・怪我させてしまった後に「先生、もしかして僕のこと嫌い?」って言われた時、マジで自殺を考えながら志貴に謝って誤解を解いたし」

「うわ・・・似たような経験ってあるんだな」

「まあ、私達ってどちらかって言うと荒事専門だもの。でも志貴を傷つけてしまった後数日は手が・・・・ね」

「オレもあの時は流石に手が震えたし切り捨ててしまおうかと思ったな・・・」

なんか後ろで物騒な会話が・・・それよりもアルクェイドさんの様子が凄くおかしいんですが?

「わたしは、志貴の事・・・」

「はいは〜い・・・脱線終了。あちらをご覧ください」

アルクェイドさんの台詞を遮るように先生がパンパンと手をたたき、続いて窓を指さした。

そこには一羽の大鴉がいた。

───見つけたぞ。真祖の姫君───

「・・・なんだ?アレ」

「朝ちょっと話に出てきたと思うけど・・・ネロ・カオスの放った鴉よ」

あれ?もしかして・・・

「あのお屋敷にもいたよ?・・・翡翠ちゃんが迎撃したけど」

僕の台詞に鴉がビクリと反応した。

「そんなことより・・・おい、そこの吸血姫。お前への客だろ?アレ」

「あんなのどうだって良いの!わたしは志貴の方がずっと大事!」

「・・・・それならアレをとっとと倒して志貴のご機嫌取りでもすればいい」

「や、アレはそう簡単に倒せないわよ。たとえ貴女であってもね」

「───へえ?」

先生の台詞に式さんが目を細めた。

「ネロは無数の命の集合体。その力を使っても全てを殺しきるのは至難の業よ?」

「これ以上情報を与えるな。まったく・・・アレを焼いておいて正解だったな・・・」

あ、鴉が居ない・・・

お姉ちゃんが撃ち落としていたんだ。

「しかし、これで相手にこの場所を知られたな。さてどうする?」

お姉ちゃんはアルクェイドさんに視線を向ける。

「───広い所で闘うわ」

「ふむ。被害を拡大させないためにも短期決戦で片付けなければならないだろうな」

「そうなると・・・そこの公園か」

「人払いを掛けて待っても相手が罠を恐れてこないかも知れないわよ?」

「お前が居たらな」

「あー・・・もしかして私は今回いらない子?」

「そうだな。明らかにオーバーキルだ。相手があのネロであってもな」

「そんな・・・志貴に良いところ見せたかったのに」

うわ。先生が凹んだ。

式さんとお姉ちゃん、なんだか容赦ないんだけど・・・

「大丈夫。先生は十分に格好いいよ」

「うううっ・・・・志貴ぃ〜」

先生が抱きついてきt────何故抱きつきながらおしりを撫でるのかな?

「とりあえず、怒って良い?」

何とかハグから逃れ、先生との距離を少し取る。

「姉として愚妹を殴る事を許可する」

「ならオレは殴り殺す事を許可しよう」

「お姉ちゃんも式さんも怖いから無表情で言わないで!」

「志貴に殺されるなら・・・良いよ」

え?そこ、顔赤らめるところなの?

「ああ、やっぱり代わりにオレが殺る」

「それに対しては全力で抵抗するわ!」

「うぅっ・・・わたしは頑張ってネロを倒して志貴に褒めてもらうの・・・」

「褒められる事はないわね。今現在志貴への好感度はマイナス・・・しかもネロは貴女が連れてきた敵よ?」

好感度がマイナスって・・・そんな事はないけど、お姉ちゃんは何か策があって言っているだろうから何も言わないでおこう。

「まあ、ネロを倒したら少しは志貴も見直してくれるかも?」

「――――全力で殺してあげるわ。ネロ・カオス」

アルクェイドさんがお姉ちゃんの挑発に乗っちゃったよ・・・

アレ?アルクェイドさんの目が、金色に・・・それに気配が何か違う?

このアルクェイドさんの変化が数時間後、あんな騒ぎを引き起こすなんて僕も含めて誰も想像していなかった。