「志貴さまのご帰還です」
翡翠ちゃ・・・翡翠はそう言いながら入り口の扉を開けた。
そして開けた瞬間、
「ひっすいちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!」
何かが翡翠に飛び付いてきた。けど、
キュッピーンッ!
翡翠が一瞬、金色の光を発したかと思ったら飛び付いてきたそれをがっしりと掴んで・・・
真上にぶん投げた。
PANIC
「物理の法則無視!?」
投げられたソレはそう叫びながら投げられ、高い天井にギリギリ届くかと言う所まで上がり、落下する。
「危ない!」
僕は叫んだけど、翡翠は何事もなくソレを空中で仰向けに回して自分の首を支点にして肩に担ぐように乗せた。
普通に担ぐだけでも大変そうなのに、落下の勢いがついているものを受け止めるから翡翠も無事じゃすまな────
「フッ!」
受け止めた瞬間、また投げた。
しかも投げたソレはメシャッとか凄い音がしたけど・・・・
・・・・・・それが人に見えるのは目の錯覚だと思う。思わなきゃ。
だって、背骨があり得ない方向に曲がっていたから・・・・・
そして二度目のキャッチが終わって三度投げた時、翡翠が動いた。
前へと。
「え?」
どうして?と思ったら、投げられたソレが前の二回同様に勢い良く降って来た。
同時に翡翠はトンッと地面を蹴って空中で凄い横回転しながら・・・・
「姉さん、死んでください」
勢い良く落ちてきたそれに回転エルボーを喰らわせた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
お父さん。
もう、このお屋敷から逃げたくて仕方ありません。
だって、ここでも都古ちゃんとお母さんレベルの戦いをしているもん。
でも、
一方的な虐殺に見えるのは気のせいかな?
これは確実に死んでると思う。
と言うよりも、あの投げ技を受けた段階で死んでなきゃ人間じゃない。
背骨どころか首もやられてたの見てたし。
「あ、愛が・・・・・・痛気持ちいEEEEEEッ・・・」
「生きてる!?」
「これくらいで死ぬような姉さんでしたらわたしは一年間で16進数FF回は殺人犯になっています」
「────255回って」
どうしよう。こんな非現実的な現実に慣れてしまっている自分が嫌だ。
「姉さん。志貴さまがお見えになったのに醜態を晒すとは何事ですか」
そう言いながら翡翠は容赦なくその和服の女の人を蹴る。
黒い、黒いよ翡翠・・・・・・
あの頃の元気いっぱいな翡翠はリーサルウェポンになってしまった。
「あの、その辺で止めた方が・・・・」
「志貴さまのご命令とあれば」
翡翠はそう言って一歩後ろに下がってカツンと踵を当てる。
軍人だ。
紛れもなく軍人だ。
「翡翠ちゃん。こちらの人が志貴さんなの?」
「うひゃぁっ!?」
僕のお尻を触りながら何事もなかったように女の人が起きあがった。
───のはほんの数秒。
今度は僕が条件反射で攻撃してしまった。
お尻を触った腕を逆手で取って逆間接を決め、そのまま捻って女の人を螺旋状に引っ張り倒すと見せかけ、一気に───
「悪霊退散ッッ!」
相手の腕が折れるのも構わず、壁目掛けて投げ飛ばした。
そしてそれに併せるように翡翠が再び地面を蹴って跳び、飛ばされた女の人の更に上空に到達すると、
「姉さんを、デッドエンドです」
僅かに曲げていた足をピンと伸ばして女の人の鳩尾を踏み、そのまま着地した。
ゴグジャッ────って感じの音がして和服の女の人がとうとう動かなくなった。
何だか怖い色の液体が染み出ているのは気のせいだよね?
「志貴さま、申し訳ありませんが、一分ばかりお待ち下さい」
翡翠はそう言ってパタパタと館の奥へ走っていく。
そしてすぐにあるものを持って戻ってきた。
それは特大のポリタンク。
そのポリタンクを和服の女の人の前に置いて蓋を開けると、
「分類は産廃でしたね」
そう呟きながら和服の女の人をポリタンクの中に入れた後に、
「────夕食の準備の途中でしたね」
思いだしたようにそう言い、ポケットから紫色の液体が詰まった試験管を───
カシャンッ───バダンッ
ポリタンクの中に叩き込み、すぐに蓋を閉め、ロックをかけた。
すると、
「■■■─────■!!!」
凄い咆吼と共にガタンガタンとポリタンクが飛び跳ね、静かになった。