「ごちそうさまでした」
お弁当を食べ終えて手を合わせる。
「「「・・・・・・・・」」」
僕、何か変な事したかな?
手を合わせたまま周りを見回す。
「久しぶりに見た・・・・」
「え?何が?」
「いや、アタシも箸を整えて持ったまま手を合わせてごちそうさまって・・・そんなに丁寧に言う人を久しぶりに見た気がする」
「わたしなんて一回も見たことないよ」
「わたしは、躾が厳しかったから家ではしてるけど、無理矢理感があるから外ではつらいかな」
それらの会話に僕はただ首を傾げながら相手を目で追うだけだった。
PANIC
「いわみん、お茶」
「咲ちゃん、私、いわみんって言わないでって言ったよね?」
「いわみんの方が可愛いからその意見は無視した」
いわみんと呼ばれた子、岩見静谷さんは大きなため息を吐きながら水筒をカバンから取り出してお茶をカップに注ぐ。
因みにお茶を要求したのは田所咲さん。
二人ともとても仲が良い。
でも・・・
「ん?何か不思議な匂いが・・・」
田所さんはそう言いながらクッとお茶を飲み干し、
「クカーーーーーーーーー!!!!」
奇声をあげた。
そしてカフェオレを一気飲みして岩見さんを睨む。
「何入れた!?」
「ショウガとお湯と蜂蜜と・・・・・・・・ハバネロ」
「はば・・・ハバネロって何?」
田所さんが弓塚さんを見る。
「えっと、確か凄く辛い唐辛子だよ」
「何てモノ入れやがるんだ!!」
「私が嫌だと言っても聞かなかったのは咲ちゃんだよね?」
「・・・・・・・岩見、目がマジだぞ。つーかもしかしてこの生姜湯も」
「うん。いわみんって呼んだら問答無用で飲まそうと思ってたんだ」
微笑む岩見さんに思い切り顰めた顔をしたままカップを戻す田所さん。
岩見さんは凄く優しくて家事全般が得意らしいんだけど、怒らせるととても怖い。
田所さん、それ分かってて地雷を踏みに行くから凄いと思う。
────分かっていなかったら、ただのお馬鹿さんだけど。
僕はお弁当箱を捨てようと立ち上がって───
「ストップ。アタシ達が纏めて捨てるからそこに置いていてくれてかまわない」
「え?でもそれだと申し訳ないから・・・」
「いやいやいやいや・・・・そうしなければ拙いって言ってんのよ」
「???」
首を傾げる僕に三人とも顔を見合わせ、
「「「危機感なさすぎるね」」」
全員一致の判決を言い渡された。
ガラガラと扉が開いた。
「そっちも食事は終わったか」
「遠野と一緒に食べているとは・・・羨ましすぎるぞ」
女生徒が二人、教室に入ってきた。
「由美ちゃんも良子ちゃんも遅かったね」
岩見さんが二人に手を振ると二人とも僕達の所へとやって来た。
「何かあったの?」
「情報収集を少ししていただけだ」
「そして食事は残念ながら二人で食べた」
二人ともそう言って自分の席に着い───
「む?遠野、食べ終わったのか?」
良子ちゃんと呼ばれた女生徒───葛谷良子さんが足を止めた。
「あ、うん」
「そうか、なら捨ててきてやろう」
「え?でも」
「捨てようとしたら止められたのだろう?捨てるのはそこではなく焼却炉だ。ほら、他のものも寄越せ」
葛谷さんは僕の弁当箱とお箸をとり、田所さんのお弁当箱とお箸もとる。
そしてそれを纏めてビニール袋に入れ、教室から出ていった。
「・・・・・・・???」
よく分からない。
一番分からないのはその後に続くように出ていく男子数名、女子数名だ。
いったい何が始まるのだろうか。
僕は弓塚さん達を見る。
弓塚さん達は何事もなかったのように談笑している。
益々分からないし、凄く気になる。
でも、だからといって葛谷さんの後を追うのも怖いのでそのまま放っておくことにした。
午後の授業が始まる前に葛谷さんは戻ってきたけど、他の人達は帰ってこなかった。
教科担任も他のクラスの人達もそのことについて触れることはなかった。
ただ、出席の際に「これだけか・・・少なかったな」と呟いた教科担任の科白が気になった。