「志貴さま、そのまま動かないようにお願いします」

突然翡翠がそう言って僕に近付いてきた。

「え?あ、うん」

頷いた瞬間、翡翠が軽く手を前に振った。

その瞬間にその振った手から何かが飛び出して、僕の耳の側を通って――――

バサッ

何故か後ろで羽音がした。

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「カラス?」

僕は月明かりに照らされながら落ちていく黒い羽でカラスと判断した。

「はい。しかも使い魔のようです」

「・・・使い魔?」

もしかして、それってお姉ちゃんとか先生とか鮮花さんとか・・・・

「見守るといった類の使い魔ではなく、何か良からぬ気配がしたので迎撃いたしました」

―――翡翠ちゃん。言っている意味がよく分からないよ・・・

僕の心の声を聞いたのか、翡翠ちゃんは少し困ったような顔をした。

「何と説明していいのか分かりませんが・・・志貴さまの周辺によからぬ事が起きそうな予感がするのです。その先兵ではないのかと・・・・」

 

 

翡翠のステータスに新スキルが追加されました。

 

 

「なんだか、頭の中で途轍もなく不可解な声が聞こえたような気が・・・」

「―――――」

翡翠は急に黙っちゃうし・・・

そう言えば翡翠は何を投げたんだろう・・・

と、

「志貴さま。今夜の外出だけはお控えください」

「え?どうして急に」

突然翡翠がそんな事を言うとは思わなかったので思わず聞き返してしまった。

「志貴さまのためです・・・」

翡翠の表情はものすごく真剣だった。

だから僕は

「うん。今日は絶対に外に出ない」

翡翠にそう言った。

 

 

「―――外に出ない・・・か」

薄暗い室内で七夜はノートを読み進めていた。

今日何が起きたかが分かりやすくまとめられて書かれているそのノートを七夜は嬉しそうに読んでいた。

色々と突っ込みたい部分はあったが、特に気になる点が一つあった。

「使い魔か・・・・」

蒼崎姉妹は少なくとも使い魔を放つ必要がない。

志貴の持つブレスレットは志貴の身に何かあればすぐに橙子に知らせが行くような仕組みとなっている。

他は――――半人前の魔術師に使い魔が使いこなせるはずもないし、もう一人は使い魔などとまどろっこしい事をするはずがない。

だとすれば、

「第三者か・・・良からぬ気配と言う事は・・・敵か」

ため息を吐き、ノートに返信文を書き込んだ七夜は妙な気配を感じた。

「―――志貴ならもっとよく感じられるかも知れないが・・・何処で戦っている?」

七夜が感じた気配は殺気。

それも無数の殺気だった。

「何が・・・・」

『何が起きている?』と呟こうとした七夜だったが、目を瞑って小さく頭を振るとベッドへと向かう。

「余計な事に首を突っ込まないでおこう」

わざわざ自らに言い聞かせるように呟き、ベッドに寝転がる。

「わざわざ変わる必要もなかった気がするな・・・」

外に出る事ができないのなら意味はない。

七夜はため息を吐くと眠りに就いた。