秋葉からの質問はその後も暫く続いたけど、時計が午後8時を告げると秋葉は会話を止めた。

「兄さん。門限と就寝時間についてですが」

「え?門限は兎も角、就寝時間も決まってるの?」

「ええ。規則正しい生活を守ってもらいます」

「ぇう〜・・・・」

「きゅ、急には無理でしょうから兄さんには徐々に慣れてもらいます」

「門限7時とか就寝9時とかだったら社会生活に適応できないよ?」

一応何となく言ってみた。

「・・・・・・・・・・・・・ッッ、兄さんは私が一生面倒見ますから社会生活に適応しなくて結構です!」

─────何だかキレられてしまった。

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「とても怠惰な生活を過ごしそうだからそれは嫌だなぁ・・・」

「た、爛れた・・・・」

「怠惰だよ?」

「あっ、ああ・・・怠惰ですか・・・・済みません。聞き違えました」

「もしかして、秋葉疲れてる?」

「いえ!それは・・・」

「秋葉さま。嘘はいけませんよ〜嘘は」

そう言って琥珀さんが秋葉の後ろに回り込んで・・・・

ガタン

秋葉はテーブルに突っ伏すように倒れた。

「あらあら・・・やっぱりお疲れのようです」

僕は何も見ていない。

注射器とか注射器とか注射器とか・・・・

うん。見てない。だって本当に一瞬だったし。

「わたしは秋葉さまを運びますので志貴さんはくつろいでいてくださいまし〜」

琥珀さんはそう言って秋葉を担いで出ていった。

「くつろいでって言われても・・・」

広い部屋。

そして恐ろしく静かな状態でどうくつろげと?

眠ったらいいのかな?眠くないけど。

と、気付いた。

「翡翠。お話ししよう?」

「申し訳ありません。職務中はできる限り私語を慎むようにと」

「僕との会話も職務のうちだよ?」

「・・・・・」

あ、少し困ってる。

あまり困らせるのも本意じゃないし・・・

「ゴメンね。変な事言って」

「いえ・・・」

「僕、部屋に戻って勉強するよ」

「・・・はい。畏まりました」

なんだか少し声のトーンが違う気がしたけど、僕はそれ以上気にすることなく部屋へと戻った。

 

 

今日の授業の復習をちょっとだけして、明日の授業で習う部分を軽く読んでいたら九時過ぎた。

「うわ、もう寝る時間かぁ・・・」

そう口にしてはみたものの、寝るつもりは全然無い。

カメラは意味をなしてなかったらしいから今のうちに連絡事項をちゃんと書いておこう。

僕は七夜くんにここの人達の事を書いた。

コンコンッ

ドアがノックされた。

「あ、はい」

「志貴さま。お約束の物をご用意いたしました」

声の主は翡翠だけど・・・約束の物って?

「開いてますよ」

僕がそう言うと翡翠がスッと部屋に入ってきた。

「時間が掛かってしまい、申し訳ございません」

翡翠はそう言って僕に細長い金属のプレート?を差し出す。

「えっと・・・・?」

「これはスペアキーです」

「え?これが?」

「このつまみを右に回すと―――――」

シュンって音とともに白銀に輝く長めの鍵が姿を見せた。

この鍵は武器か何か?

「この鍵はいざという時の武器になります。チタン合金で作ってありますので鉄よりも硬く、また場所によっては鋭くカッティングしてありますので」

一枚の紙を取り出した翡翠は鍵の先を紙に押し当ててスッと下まで引いた。

パラリと紙が切れてしまった。

「このように刃物の代わりにもなります。ただ、切れ味よりも鍵としての本来の機能と硬さを重視していますので・・・」

「充分すぎるというか・・・刃物は流石にやりすぎだと思うよ?」

でも、十徳ナイフみたいな物と考えれば何とか・・・

「申し訳ありません。すぐに作り直して「ゴメン。これで充分だよ」」

僕は翡翠がその鍵を仕舞おうとするのを慌てて止めた。

「しかし」

「珍しい鍵なだけだから問題ないよ。わざわざ翡翠が作ってくれたんだからありがたく受け取らないと」

僕は翡翠からその鍵を受け取ってポケットに仕舞った。