精神を集中し、一気に意識レベルを下げる。
そして同時に自身に通っている魔力の流れを止める。
─────ぐっ・・・・が、ぁっ・・・
聞こえるのは血流の音のみ。
ミシミシと音を立てて体の内側から圧縮されていく感覚。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!」
意識レベルを下げていても痛覚をほとんど感じないはずの状態にしてもこれだ。
慣れる事のないこの感覚。
だが、この痛みとダメージは不思議と体には無いとのこと。
橙子が変形の事を知った後に散々調べたが、身体的ダメージは全くなかったとの事だった。
そしてこの痛みは志貴へは行かない。
痛みは全て俺が受けるようになった。
それは体の管理権限を俺が持っているからに他ならない。
───志貴、客人だ。
───んぇ?
意識の内なのに寝ぼけているな・・・
その反応に感心してしまった。
───お客さんだ。
───僕お茶出すから七夜君はケーキ焼くの
・・・・・・む。気合いの入った寝ぼけ方をしているな・・・
───そしてねーケーキには抹茶のクリームのっけてアツアツトロトロなの
────頼むから起きてくれ。
俺は自身の意識を一気に下げ、かわりに志貴の意識を押し上げた。
───ふにゅう〜ふかふかケーキ♪
───大好きな先生達が用意してくれているだろうよ。
俺の『声』が聞こえたのか志貴の意識は急速に覚醒へと向かった。
「・・・・完全に変わるまで一秒とかからぬか」
老人は僅かに驚きの表情を見せる。
「七夜君も押し出すのに苦労したようね」
「あちゃぁ・・・寝てるし」
状態から大体の事を察してため息を吐く蒼崎姉妹。
そして・・・
「─────ケーキ」
目を擦りながら志貴がフラフラと立ち上がった。
「ケーキ?」
突然の台詞に首を傾げる橙子。
「しまった・・・志貴が出てくるとは思ってなかったから用意していないわよ。まずったわ」
『あいたー』と額を叩く青子だったが、
「む、隠していたのがバレたか?」
老人が志貴の台詞に反応してカバンから紙箱を取り出した。
「「また珍しい事を」」
姉妹同時に老人に対し、同じ台詞を呟く。
「気まぐれじゃよ。嫌味の一つでも言われた場合にこれを見せて切り返そうと思ってな」
老人はそう言って紙箱をテーブルの上に置く。
「しかし・・・・何という力じゃ」
「志貴を実験には使わせないわよ」
「例え魔道元帥でも・・・」
二人揃って老人を睨む。
「そんな事はせんよ。ワシを信用してここまでしたのじゃ」
微苦笑する老人。
「───────ぅ?」
志貴がようやく覚醒した。
「えっと、初めまして」
気が付くと僕は先生達の事務所にいた。
そして目の前に走らないお爺さんがいた。
「今晩はお嬢ちゃん。ワシの名は────まぁ、ゼルレッチと呼んでくれ」
「僕は志貴です」
お爺さんに軽くお辞儀をする。
「先の青年もお嬢ちゃんも・・・・この二人の側にいながら良くもまぁ真っ直ぐに」
お爺さんは上を見上げてそう呟く。
「?」
「まるで私達がロクでもない人間のような言い方ね」
「あまり否定できない所が悲しいわね」
お爺さんと親しいのかお姉ちゃんと先生は深々とため息を吐いた。
「志貴、この方は魔術協会────時計塔のトップで魔道元帥とも呼ばれている方よ」
「あと、魔術師ではなくて魔法使いよ」
「え?先生と同じなの?」
「桁違いに元帥が上よ」
「破壊に関しては昔であってもガンナーには及ばぬよ」
「ふーん・・・・・お爺さんも魔法使いなんだ・・・」
「お爺さんって・・・」
「説明してもそう来たか・・・」
あれ?何か、悪い事言ったかな・・・
「・・・・・・・・・お嬢ちゃん」
「?」
「もう一回言ってくれんかね」
「?・・・お爺さんも魔法使いなんだよね?」
「ちょっ、志貴!?」
「??」
「ふっ・・・・お爺さんか・・・」
お爺さんは暫く目を瞑り、
「・・・・良いかも知れんな」
えっと、もしかして地雷を踏んじゃった?
「お爺さんが駄目なら、ゼルレッチさん?」
「────いや、お爺さんで構わん」
「・・・・目が恐いからゼルレッチさんで」
「くっ・・・・」
何だろう。
魔術師って、みんなこんなタイプの人ばかりなのかな・・・・やだなぁ関わりたく無いなぁ・・・・
ゼルレッチさんの血が出そうな程悔しがるその姿を見ながらそう思った。