「しかし・・・流石七夜といったところか」

橙子はクリップで留められた書類を青子に渡す。

「そうね。協会や組織の野暮用って言っても簡単じゃないのに・・・まぁ、七夜の力に志貴程じゃなくても魔術が上乗せされていればねぇ・・・」

書類をめくりながらため息を吐く青子。

「現時点でいくら稼いでいるの?」

「7ケタから8ケタ・・・・いい加減数えるのも面倒になったから手製の金庫に放り込んでいる」

「いいの?それ」

あきれ顔の青子に橙子は

「許可は得た」

当然といった顔でそう答えながら眼鏡をかけ、ソファーにしなだれかかった。

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

ソファーにしなだれかかったわけではなく、ソファーに座っていた七夜にしなだれかかっていた。

「・・・わざとですか?」

努めて冷静な声。

しかし、僅かに諦めにも似た声色が滲んでいた。

「ええ。わざとよ」

ニッコリと笑うと七夜にそっと身を寄せる。

「・・・・まあ、構いませんが」

「じゃ、私も」

そう言って青子は橙子とは反対側の右側にピッタリと寄り添った。

「・・・・・出来れば離れて欲しいのですが、暑いですし」

「我慢我慢」

「そうよ」

姉妹のステレオ攻撃に七夜は深々とため息を吐いた。

と、

「おや、お邪魔だったかな?」

背後から声がした。

 

 

「どうして元帥が・・・」

呻く青子。

橙子も口には出さないが同じ顔だった。

つまり、厄介者を見るような目――――

「旅の途中で立ち寄ってみただけじゃ」

老人らしからぬ老人はそう言って笑う。

「今まで似たようなことを散々したが、ワシの気配にこうも早く気付いたのはお主だけじゃよ」

愉快そうに笑い、七夜を見る

「初めまして」

七夜は苦笑混じりに挨拶をする。

「二人に調教されておるのか?」

「いえ、お二方ともとても優しくして下さっています。特にもう一人の方に」

「もう一人と?」

「はい。俺はこの体の本来の持ち主ではありませんから」

微苦笑する七夜に老人は目を細める。

「二人ともそう睨むな。ワシが悪い事をしたみたいではないか」

「不法侵入も悪い事ではないでしょうか」

七夜の台詞に蒼崎姉妹はギョッとした顔をする。

しかし、

「ははははっ、いや、その通りだな」

老人は心底おかしそうにそう言って笑う。

「最近はワシにそう言った物言いをする者もおらんから忘れていた。すまんな人形師」

「あ、いえ・・・・」

頭を下げられ、驚き恐縮する橙子。

「うーん・・・流石志貴。私でもそこまでは言えないわ」

感心する青子に七夜は小首を傾げる。

「それに近い事を言いおるじゃろうが」

素早く突っ込む老人。

「お主は二重人格───とは少し違うようじゃが」

「そうですね。確かに二重人格とは違います。俺の場合は二重体────と言った方が良いと思います」

「二重体・・・・すると変身するというのか?」

「志貴!」

青子が止めようとするが、七夜はチラリと青子を見ただけで言葉を続ける。

「はい。しかし、それらを抜きにしてもお二方は優しくしてくださっていますよ」

「そうか。興味本位で一つその変身を見せてはくれぬか?」

「・・・体に負担を掛けますが」

七夜はそう前置きし、目を閉じた。