「姉さん、最強の連鎖を思いついたんだけど」
古い書物を運んでいた青子が机に向かい書類と格闘している橙子に声をかける。
「考えるなと言ったはずだ。とてつもなくイヤな予感がする」
書類との格闘を止め、視線を青子に向けるとあきれたように言う。
「思いついてしまったんだから姉さんも同じ目にあって貰わないと・・・」
「言霊で現実になってしまったらどうする気だ?」
「それこそまさかよ。ロトくじを買って一発で当てた挙げ句、その金すべてを大穴に注ぎ込んで当てても足りないくらいの偶然よ?」
「もしもと言うことがあるだろうが―――まぁいい。言ってみろ」
魔法使いと魔法使いになれなかった封印指定魔術師の二人。
その二人の他愛もない会話であったが、その会話こそ未来を指す予言となっていた事を本人達も気づきはしなかった。
PANIC
「真祖の姫さまをとっ捕まえてオトしてお目付役の魔道元帥を呼び寄せ、更にそれらを呼び寄せた志貴に興味を持った死祖27祖を呼び寄せて、トドメめはアカシャの蛇が転生してそれを追って教会が動く―――」
「で、教会は埋葬機関全司教投入してその全員が志貴に惚れる―――と」
「どう?あり得ないでしょ?」
あり得ないと言うことを前提に話をしているために話がどんどん大きくなる。
「まぁ、それは志貴があの城に行ったらの話だからな。それに奴には感情なんてものはほとんど無いらしいから・・・あり得ないのなら時計塔だけではなく穴蔵から錬金術師を引っ張り出すというのはどうだ?」
「うっわ、それこそあり得ないわね・・・奴等は絶対に外に出ないものね」
「―――どのみちどこをどう突いてもそれらはあり得ない話だ。あるとすればロアが転生先を日本にした場合だな」
「魂の選定でわざわざ極東の地を選ぶなんてよほどの落ち目じゃない限りあり得ないものね」
「力を持つ一族なんて限られているからな。人ならざるモノの血を受け継ぐ者達ならいるが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
橙子が固まる。
「姉さん?」
「―――――――――気にするな。とてつもなくイヤな予感がしただけだ」
「何?」
「お前の理論を使えば最悪の展開があるかも知れん」
「え?」
「力は別の力を呼ぶ・・・志貴は七夜一族。そして志貴を引き取った先は遠野・・・人外の宗家だぞ」
「・・・・・・・・まさかあの中にロアが紛れる可能性がある・・と?」
「お前の説を強制利用して万が一の可能性があるとすれば・・・その中で最も強く血を受けた者・・・遠野の者なら転生先としてはちょうど良いはずだ」
「ま、ね・・・それでも天文学的な確率ね」
「―――そうだな。あり得ないと言えるレベルだろうな」
橙子は椅子に体を預け、眼鏡を外す。
「―――だが、確率上で言えば志貴自体が『あり得ない』の連続だ。最悪のことを予測し、それに向けて対策を取っておくことも必要だとは思わぬか?」
「そうね・・・私達の志貴が他の奴等に取られるのは勘弁願いたいわね」
「何人たりとも志貴を汚す者は許さん・・・志貴は志貴のものだ」
「・・・・・・・・・姉さん、それって・・・」
「そうだ。志貴と七夜は表裏一体だからな」
ニヤリと口元だけを歪めて笑う橙子に青子は寒いものを感じた。
「うぁ・・・少し熱っぽい・・・」
シャツの胸元を少し開けて籠もった熱を解放する。
でも、一度自覚したらどうしようもなかった。
どんどん上がっていく熱。
次第に朦朧とする意識。
息が、熱い。
「はぁっ・・・」
胸元を抓んでパタパタと換気替えをしているのに体はとても熱くて、
頭はクラクラしてて、
他の乗客の人達がこっちを見てる・・・
みんな病院に行くのかな・・・顔が真っ赤だ・・・
うあ、僕は限界かも・・・・・・
流石にここで倒れるわけにもいかなくて僕は次のバス停で降りることにした。