「ふぅ・・・流石にまだ熱い・・・・・・」

七夜は未だに赤い顔を缶のお茶で冷ましながら触りながらそう呟いた。

今の七夜に取って夜風は助けであり、そして人気がないのも同じくらいありがたかった。

「ふぅ・・・・・・鼻血が出そうだ・・・」

その美貌から出てきた言葉は何とも情けないものだった。

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

ジャッッ

突然七夜の前に数人の人間が立ち塞がった。

それぞれが武器を持ち、口々に何か言っているが七夜は僅かに顔をしかめるだけでその者達を見ていたが、

「―――ああ、潰した振興組織の残党か。全部捕まえたと思ったんだがな・・・」

そう言ってニヤリと笑うと体のガッシリとした男の首に向けて素早く指弾を放った。

「ぐっ!!」

男は首を押え蹲る。

「おっと、下手なコトするなよ。頸動脈を僅かに逸れているだけだ。病院で取らなければ・・・死ぬぞ?」

男の首に突き刺さっていたのは缶のお茶についていたプルタブだった。

そして一同が男の首に目を向けたその一瞬の隙をついて七夜が動いた。

真っ直ぐ駆け、瞬時に斜め前に跳ぶ。

そして再び前に進み横に跳ぶ。

意味不明な行動。

しかし足音をほとんど立てずにその行動をされたためかそれとも闇にまぎれ、その早さに相手がついていけないのか全員七夜を見逃してしまっていた。

慌てて分散し七夜の姿を探すがそれこそ間違い。

一人、また一人と七夜の餌食となり瀕死の重傷を負って冷たいアスファルトにその身を倒していった。

そして残り一人―――

相手はナイフ。

すぐに動くと警戒していた刺客だったが、あろう事か七夜は刺客の手前に現れた。

「なぜ、殺さない?」

その声は女性の声だった。

「俺は女性を殺さない」

「それは侮辱か?」

冷静な声。

しかしその声は圧倒的な力を前にした恐怖からか僅かに震えていた。

「そうではない。俺は男と女では役割が違うと考えている」

冗談混じりにそう言いながら七夜は殺気を消す。

「・・・・・・」

「男は敵を倒し、女は生命を育む。しかし女は同時に男を操り、男を滅ぼす者だ」

「・・・何が、言いたい?」

「男は女性を守り、そして殺されなければならない。そして男が女性を殺してはならない・・・と俺は思っている」

七夜はそう言って苦笑しながら刺客の横を通り過ぎる。

「それに・・・此奴等はまだ生きている。運んでやる奴がいないと可哀想だろ?―――ただ、本当に殺す気なら死ぬ気で来い。そうすれば殺してやるよ」

ハッとなり振り向く刺客に七夜は背を向けたまま闇に消えていく。

「気が向いたら救急車を呼んでやるよ」

そう言い残して・・・

その時七夜の脳裏にはいつも見ていた志貴の姿と女性が重なって見えていたのだ。

「―――フェミニストにはなった覚えはないんだけどなぁ・・・ああ・・・志貴を筆頭に女性に逆らえなくなっているのかもなぁ・・・」

志貴は深々とため息を吐き、気配を消すと闇の中を走った。

 

 

「・・・っ・・・」

全身の力が抜けたのか、その刺客はカクンとその場に座り込む。

「―――何故」

ポツリと呟く。

「何故こいつらを殺して私を攫っていかなかったの・・・?」

爆弾発言をぶちかました。

『『『『ぅおいっ!!』』』』

瀕死の状態ながら刺客達は心の中で一斉に突っ込んだ。

「ああ・・・私の愛しい暗殺者」

しかし心の中のつっこみが届くはずもなく暴走は止まらない。

「早く、早く貴方の胸の中で死にたい・・・それまでは貴方を追う獣になります!」

怪しげな夢見る乙女となったその女刺客は仲間を放ったまま、七夜を追って闇の中へと消えていった。

「―――救急車、まだかな・・・・・・」

「ぁぁ・・・・・・」

「俺等、このまま死ぬのか・・・?」

「呼んでくれることに期待しておこうや・・・」

冷たいアスファルトの上に転がる四人の刺客。

彼等が回収されたのはそれから数分後だった。