───まさかあの時あそこまでなんて・・・

青子は橙子の蹴りを受けながらその時のことを思い出し、顔を赤らめる。

一体どんなことを七夜にされたのか───真相は闇の中に消す予定らしい。

「蹴られながら興奮するとは・・・実はマゾだったのか?」

その行動に橙子からあらぬ誤解を受けてしまったようだ。

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「仕方ない。蒼崎が動くと情報を流しておけばよほどのモグリじゃない限り手は出さないはずだ」

蹴り飽きたのか橙子は青子から離れ、小さくため息を吐く。

「愛が痛いわ・・・」

ズタボロの青子が倒れたままそう呟く。

「私がお前に対しての愛があるとでも?」

「全然」

小さなかけ声と共に跳び起きる青子。

埃や蹴り痕だらけではあるが割とダメージはなかった。

「全く・・・姉妹喧嘩も結構ですが見ていない所でやってください」

七夜が小さくため息を吐きながら青子の服に付いた埃を落とす。

「ァ・・・ゴメンね、七夜」

青子は七夜にポンポンと埃を払われた瞬間に顔を真っ赤にして小声で謝る。

「気にしてませんよ」

七夜は微笑しながらそう答えると橙子の方を向く。

「橙子さん。少しお願いしたいことがあります」

「何だ?」

「俺が稼いだ金を一括管理して欲しいのですが・・・勿論管理費はお支払いいたします」

「別に構わん。管理と言っても置いておく程度なのだろ?」

橙子は腕組みをし、軽く目を閉じる。

七夜が橙子に近づき、両手で橙子の頬に手を添える。

その感触に橙子は驚いて目を開け、そのまま魅入られたように微動だにしない。

「橙子さん。これはビジネスです。俺は橙子さんを信じてこのビジネスを申し出ているのですから」

「あ、ああ・・・分かった」

真剣な七夜の顔に橙子は耳どころか目元まで真っ赤にして何度も頷く。

「ありがとうございます」

そのままの体勢でフッと微笑する七夜に橙子は、完全に堕ちた。

七夜の・・・吐息が・・・

そして青子は、

「姉さんばかりずるい・・・」

そんな橙子に嫉妬していた。

 

「む、もう3時か・・・」

壁に掛けられていた古めかしい壁時計を眺め、七夜が小さく息を吐く。

「七夜。これからも仕事を続けるつもりか?」

「ああ。あと一、二回はしたいと思いますが・・・それが何か?」

「いや、な・・・」

橙子はフッと息を吐き、七夜を見る。

「お前のしている仕事はリスクが高すぎるということを自覚しているか?」

「自分の背丈にあった仕事をしているつもりですから」

ニッコリと微笑む七夜に橙子はため息を吐き、首を横に振った。

「───どうやら、何を言っても無駄なようだな」

「済みません・・・でも、今のうちにやっておかなければならないんです・・・俺がいつ消えても良いように・・・」

寂しそうに笑う七夜。

だが、

「「はぁ?」」

蒼崎姉妹は同時に聞き返してきた。

「何言ってるの?七夜」

「私達が消すと思うか?」

「・・・え?」

七夜が一瞬、呆けたような顔になった。

「体の問題ならばどうとでもなる。問題は魂の分割だけでソレも下準備を進めている途中だ」

「・・・・・・」

七夜はあまりにも唐突な展開に声も出ない。

「そう言えば聞き忘れていたことがあるのだが・・・七夜。志貴の生理はどうだ?」

「せっ!?」

七夜再起動。

しかし何を思い出したのか顔を真っ赤にして再度固まった。

「あらら・・・七夜ったら志貴に対してはウブなのね」

ニヤァッと笑う青子と

「〜〜〜〜っっ!!」

何を思い出したのか七夜同様顔を真っ赤にする橙子。

「ね、姉さん?」

橙子のあまりにもらしくない反応にビクリと体を震わせる青子。

「な、何でもないぞ・・・」

これ以上ないと言うくらい顔を真っ赤にしながら視線を彷徨わせていた。

「姉貴・・・何があった?」

青子が威圧をかけながら橙子に迫る。

ぁぁ・・・志貴が恥じらいながら・・・可愛いにゃぁ・・・そのまま・・・ああっ!

瞳を潤ませ視線は何かを投影しているのかあらぬ方向に向け、身をくねらせながらブツブツと呟く橙子。

「―――――だぁめだ。姉さんが完全に壊れた。こりゃぁ余程のことがあったみたいね」

盛大なため息を吐きながら青子がそう言うと七夜を見る。

「アレ?七夜?」

しかしそこには七夜はいなかった。