「ううう・・・先せぇキライ・・・」
「ゴメンゴメン・・・志貴触りたい病の禁断症状が出たみたい」
「だからってあんな所触らなくても」
「良かったなぁ・・・志貴の太股。シットリと保水性があって柔らかくて」
先生は自分の手を見つめながらウットリとした顔でそう呟く。
ここまで妙なテンションだなんて・・・先生、かなりお疲れなのかもしれない。
僕は先生を休ませようと決心し───なかった。
PANIC
「志貴・・・そんなに私に触られてイヤだった?」
「え?」
急に先生が真剣な顔で僕を見た。
「志貴・・・私のこと、キライ?」
「あ、あの・・・・・・」
「良いのよ、イヤならイヤってハッキリ言って欲しいな・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
シンと静まりかえった室内が辛い。
「先生の意地悪・・・」
「志貴?」
「僕が、先生のこと嫌いなわけないのに、わざとそんなこと聞いてくるから・・・」
苦しい。
先生が僕を苛めるのがじゃなくて、
先生が僕を拒否することが・・・苦しい。
「ゴメンね、志貴・・・志貴を苛めすぎた。駄目ね・・・自分自身も騙せないような嘘をついちゃ・・・人を不快にさせてしまうのも駄目なことよね・・・」
泣くのを必死に堪えていた僕を先生はそっと抱きしめる。
「先生・・・・・・」
「志貴、大好きよ。私が志貴を嫌うわけないじゃないの。他の人達が志貴を嫌っても私は志貴のことを好きでいられる自信があるわ」
軽くキスしてくれた後、抱きしめていた腕を緩めて僕の頭を胸元に持っていく先生。
トクントクンと鼓動が聞こえた。
それはとても優しくて、暖かかった。
暫くそんな時間が過ぎ、僕が少しウトウトしてきたとき、不意にあることを思い出した。
「あ、早く書いておかなきゃ」
少し名残惜しかったけど先生から離れ、鞄を漁る。
「何?宿題?」
先生が少し不機嫌そうに聞いてくる。
「宿題じゃなくて・・・今日は七夜君が出てくる日だから七夜君に報告と残りのお願い書くの」
「・・・・・・え?」
先生は僕の答えが意外だったのか呆けた顔をしていた。
「?」
「イヤ、まさか交換日記?」
先生の顔が弛んでいる。
「ん〜日記じゃないよ。ただ要望とか簡単な行動記録かな」
「イヤ、それ日記と同じ・・・」
何か言いたげな先生だったけど事務的なことしか書かれていないから日記と言うよりも行動記録書と言った方が妥当だと思う。
先生にノートを見せて僕の言っていることが正しいと立証させよう。
「ほら、これは行動記録書でしょ?」
僕は先生にノートを開いて見せた。
「む──────」
先生はノートを見て小さく唸った。
七夜君の部分には時間とその時の行動記録が事細かに書かれている。
「──────ははぁ・・・協会で有名になっていたフリーの魔術師って七夜だったのね・・・」
先生は納得したように頷き、にんまりと笑った。
「志ィ貴・・・愛されてるわね」
「?」
先生の言っていることがよく分からない。
「今度来るときに七夜のやった分の仕事のお金ふんだくってきてあげるから」
「??」
何が何だか分からなかった。
「志貴、ちょっとこのノート貸してもらえる?十分で返すから」
「え?うん」
先生はやっぱりニヤニヤ笑いながらノートを持って部屋から出ていった。
暫くして先生とお姉ちゃんがやっぱりニヤニヤ笑いながら戻ってきた。
「2ヶ月で百万単位か・・・確かにうちを隠れ蓑にしないとできない稼ぎ方だ」
「姉貴よりビジネス上手いわね」
「煩い」
二人とも何か楽しそうに言い合いながら僕の所にきた。
「はい、返すわ」
「??」
先生がノートを返してくれたのでそれを受け取る。
やっぱりよく分からない。
「説明したか?」
「一応は」
「・・・にしては理解し切れてないぞ」
「ま、そうでしょうね・・・」
何か、話が僕の知らないところで勝手に進んでいる気がした。
「もしかして置いてきぼり?」
何だか取り残されたような気がして思わず呟いてしまった。
「まさか。私達が志貴のことを置き去りにすると思うか?」
「そうよ。志貴のことを心から愛しているのに志貴を独りぼっちにするわけないじゃないの」
「──────」
二人がかりで突っ込まれてしまった。
しかも先生は「大好き」から「愛している」にグレードが上がっているし・・・
お姉ちゃん否定しないで頷いてるし・・・
でもそれが少し嬉しくって二人に抱きついた。
「こら♪甘えんぼさんめ」
「やっぱり志貴は可愛いにゃぁ・・・」
二人とも僕の頭を撫でてくれた。
僕は夜まで二人に頭を撫でられるというのんびりとした時間を過ごした。