先生達の話から数ヶ月経った。

でも、先生達の話とは裏腹に僕の周辺でそんな妙な話は聞こえてこなかった。

夏になり秋になり―――

先生達が言っていた話を思わせる事件が連続して起き始めた。

そして昨日、遠野に戻るようにとの手紙が速達で届いた。

「いい?何かあったら戻ってくるのよ?それとも奪還した方が良い?」

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「―――本気で言ってそうなので遠慮しておきます」

「私は貴方のことを本当におにんgyゲフンゲフン・・・うちの子だと思っているの」

お母さんが恐い。

目がギラついていて、息が荒くて、ジリジリと近付いてきて・・・・・

「落ち着け」

いつの間にか横にお父さんが立っていて、お母さんの脇腹に寸勁を打ち込む。

更に、

「吩っ!」

震脚と共に剔るように鉄山靠をお母さんに叩き込んだ。

「ごばぁぁっ!?」

お母さんが吹き飛ばされて木に激突して動かなくなった。

流石お父さん。

恐ろしい程の威力だ。

「志貴。遠野のお屋敷はここ程ではないかも知れないが、まともな人間は居ない。これからは自身の身は自身でしか守れない・・・いいね。どんなことをしてでも生き残れ。たとえ相手を殺してもだ。辱めを受ける前に殺せ。世の中、アレ以上に厄介な奴は沢山いる。其奴等は総じて化け物。躊躇わずに殺れ」

「えっと・・・よく分からないけど、何となく分かった気がする」

「よし。都古が寂しがるから偶には戻ってきてくれると嬉しい」

お父さんはとても優しい微笑みを見せてくれた。

「うんっ!」

「無視?!」

お母さんが勢い良く立ち上がった。

「早く行け!これは俺が食い止める」

「───ふっ、数年間全てを偽っていた貴方に何が出来る?」

お母さんがユラリと立って構える。

「出来る。息子を───娘を守るためなら」

お父さんがどこからともなく二本の短棍を取り出して構える。

「・・・じゃあ、行ってきます!」

「ああっ!ハグしてないのに!」

「行かせるか!」

僕の背後で恐ろしい闘気と殺気の混じったぶつかり合いをしていたが、僕は振り返らずに学校へと向かった。

 

 

とっ、とっ、とっ

学校の裏門前で立ち止まる。

ここから入るのも今日で最後。

そう思うと感慨深いものがある。

人気はあまりない。

木が茂って少し不気味とのことであまり評判がよくないからだ。

でも、僕はここが好きだった。

明日からは正門から学校に入ることになる。

「・・・これまでありがとう」

僕は門に手を当て、お礼を言った。

サァァァッッ

風が吹いた。

「?」

風に乗って何か声が聞こえた気がした。

その声は、僕に何か言っているような、そうじゃないような・・・・

「気を付けて・・・?」

そんな感じで言っているようだった。

「・・・よく分かんないけど、ありがとう」

僕は小さくお礼を言った。

先生やお姉ちゃんが言っていた。

耳に聞こえるもの、問いかけるもの、訴えてくるもの。

それらは忠告であり警告であり誘惑だと。

だから忠告や警告は感謝しながら受け取りなさい。と

きっとこの声は何かこれから起きることへの忠告や警告の類なんだ。

「注意しなくちゃ・・・」

僕は自分にそう言い聞かせて門をくぐった。