「考えてみたらお兄さんなんだよなぁ、僕も」

カバンを持ってのんびりと登校する。

二年生になって一ヶ月以上経った。

クラスもあまり変動無くみんないつも通りの日常だった。

四月は少し煩かった。一年生達も五月の連休を終えた辺りから高校生の自覚に目覚めたのかおとなしくなっていた。

―――うん、人数が少なくなって静かになっていたというオチではないはずだ。きっと。

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「姉さん、なかなかきな臭い話を聞いたんだけど」

部屋に入ってきたと同時に蒼崎青子はそう告げた。

「お前が関わると何でもきな臭いだろうが」

書類と睨めっこをしたままその部屋の主、蒼崎橙子は素っ気なく言い放った。

「うっわ言い切ったわね・・・あの子に関係する話なんだけど?」

「どうした。早く言わんか」

その台詞を聞いた瞬間、書類をゴミ箱に叩き付け、青子を見る。

先程とは全く違う態度に青子は僅かに顔を引きつらせた。

「・・・・・・本気で志貴中心主義になったわね」

「今更だろ。それにあの子に関係する者は全てそうだと思うが?」

「―――少しはいるんじゃない?好意を持っていない奴は」

「いると思うか?居たら今頃そいつの命はないと思うが」

「・・・・・・・・・・・・」

そう言われて暫く考え込む。

そして出た結論は、

「確かに」

そんなものだった。

「早く教えろ。焦臭い話とは何だ」

「ああ、忘れてたわ。焦臭い話ってのはね・・・」

二人はテーブル越しに向き合うとボソボソと本題を話し始めた。

 

 

「梅雨時は息がし辛い気がするな・・・」

学ランを外しカッターシャツをパタパタと開け閉めして風を送る。

―――どうして独り言なのにみんな反応してこっちを見るんだろう・・・

何故視線に違和感を感じるのだろう・・・

僕はちょっとだけ疎外感を感じた。

「あ、あの・・・遠野くん、人前でそんなことはあまりしない方が良いと思うよ」

弓塚さんの一言で教室内が瞬間的にいつもの雰囲気へと戻った。

「あ・・・ありがとう弓塚さん」

そっか。みんな止めろっていう非難の目だったんだ・・・

僕は自分の無頓着さを恥ずかしく思った。

「や、先生的にはもう少し胸をはダヴォアッ?!

教科担任が何か言っていたけど僕の耳に届く前に悲鳴によってかき消されてしまった。

教員が妙なことを言ってやられるのが日常的になっているこの学校。

本当に進学校なのかと心底疑問に思う。

「ここ、進学校なんだよね?」

不安になって聞いてみた。

「そうだよ。周辺で特に競争倍率が激しい学校だよ」

高田君は事も無げにそう言った。

「・・・・え?」

「更に言うとここは特進クラスだったり」

「ちっ、蘇ったかエロ教師!」

「ふはははは人の心に恐怖がある限り何度でも蘇る!―――というわけで授業を始めるぞ」

「もう何がなんだか・・・」

こんな面々でよく特進クラスなんて言い切れるなぁ・・・なんて思いながら午後の授業を受けていた。

―――でも、ここが特進って事は有彦もそうだと言う事で・・・

「恐ろしい冗談だ」

思わず呟いた。