柔らかな光の帯が顔を撫でた。

僕は次第に覚醒していくのが実感できた。

しかし、覚醒しつつある意識の中、昨夜のあのことが脳裏を過ぎった。

「──────夢?」

そう呟くしかできなかった。

ショウウィンドーに映し出された銀髪の長い髪と赤い瞳をもつ綺麗な少年。

とても優しい目をしていた。

そしてその目は何故か僕を見ているようにも思えた。

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「む〜〜〜〜」

あの夢の人が気になって授業に集中できず、ズルズルと昼休みに入ってしまった。

「ど、どうしたの?遠野くん・・・」

朝からずっとこの調子だった僕を心配してくれたのかクラスメイトの女子が声を掛けてきた。

「ン〜ちょっと考え事・・・」

「何だ。あの日か?」

有彦がニヤニヤ笑いながらそんなことを言う。

ヒュッ

間合い外だったが牽制の意味を込めて拳をふるう。

「うおっと・・・あぶないあぶがっ・・・・・・」

バチンと大きな音をたてて有彦の頭に何か当たった。

「ぐぉぉぉ・・・・・・」

後頭部を押さえゴロゴロと転がる有彦。

驚異の撃たれ強さをもつこの男がここまでダメージを受けていると言うことは。

「・・・・・・普通の人が喰らっていたら死ぬかも」

思わずそう呟いてしまった。

僕は有彦を蹴って退かし、凶器を探す。

「ぐぉぉぉ・・・・・・おおおっっ白か!」

何気に余裕があったので鳩尾を突き、肩を外してロッカーに放り込んだ。

すると教室にいたみんながロッカーの方に集まってロッカーを殴ったり蹴ったりしていた。

―――嫌われてるなぁ・・・有彦。

微笑ましい光景から目を逸らし、僕は周辺の床を見回す。

「えっと凶器は・・・・・・これかなぁ・・・」

チョークの固まりが変な風にこびり付いている定規が有彦の転がっていた辺りに落ちていた。

定規を拾い何か手がかりはないか細かく見ると、端に小さく名前が書かれていた。

「んっと・・・弓塚さんのかぁ」

僕は弓塚さんを捜す。

「・・・さっきまで居たと思ったけどなぁ・・・」

辺りを見回し、ロッカーの方も見る。

「やっぱりいない・・・おかしいな・・・・・・」

さっきまで視界の端にいた気がしたにもかかわらず弓塚さんの姿はそこになかった。

仕方ないのでチョークをふき取って弓塚さんの机の上に置いた。

「・・・深く考えるのはやめよ・・・お姉ちゃん達に聞いた方が早い気がするし・・・」

小さくため息を吐いて背伸びをし、残りの休み時間を有意義に昼寝することにした。

 

 

「姉貴、お〜〜〜〜い」

「・・・・・・・・・」

「あ〜・・・完全に出来上がっちゃってるよ・・・」

青子はベッドの上でグッタリしている橙子に何度か声をかけるが惚けたように焦点の合わない目で天井を見ているだけだった。

「―――確かに、今私も気を抜くとそうなるけどねぇ・・・」

ゆっくりと息を吐き、緩慢な動作でベッドの上に乗る。

そして橙子を少し退かし、スペースを作ると青子も寝転がった。

「―――凄かったね」

「―――――――――ああ」

「少しだけ・・・寝ようか」

「―――――――――そうだな」

それきり二人の会話は途切れ、変わりに僅かな寝息だけが聞こえた。

 

「うみ〜〜〜お姉ちゃんも先生も出てくれない・・・寝てるのかな・・・」

ブレスレットに力を込めても何の反応もなかったので僕は直接向かうことにした。

人気のない路地を通り、人払いの結界を越えて目的地に向かう。

扉の前に立ち、ブレスレットをかざすと扉が開く。

「・・・お姉ちゃん、先生?」

中に入って呼んでみたけど誰の返事もなけど奥から人の気配はする。

「───寝てるのかな」

僕は恐る恐るベッドルームへと向かった。

カチャッ───

「お姉ちゃん?先生?」

「んぅっ・・・・・・志貴ぃ?」

ノロノロと起き上がる先生。

その動きはとても艶めかしかった。

「先生・・・どうかしたの?」

「ん〜・・・ちょっとね・・・」

先生は曖昧な笑みを浮かべるとモゾモゾと動く。

「何か聞きたいことでもあるみたいね・・・」

「あ、はい・・・アレ?お姉ちゃん?」

お姉ちゃんが上半身を起こした。

「お姉ちゃん!裸だよ!」

「ん?・・・!・・・ああ・・・」

お姉ちゃんは僕を見た瞬間、顔を真っ赤にして顔の半分を布団で隠した。

「あらら・・・姉さん顔真っ赤よ?」

「うるさい・・・・・・」

「まったく・・・恥ずかしいの?」

「当たり前だろ!」

お姉ちゃん達が何か言い合っているけど二人ともとても幸せそうだった。

「えうぅ・・・二人とも楽しそう・・・」

僕は除け者にされたような気がして寂しく思いながら二人のやりとりを聞いていた。

 

「志貴、聞きたい事とは夢の事か?」

しばらくしてお姉ちゃんと先生は言い合いを止めると僕を見た。

「どうして知ってるの?」

僕は一瞬まさかと思った。

「恐らくは志貴の思ったとおりだ。昨日のアレは夢であって夢ではない」

「まさか志貴があんな綺麗な子になるなんてね・・・ああ、写真撮っておけばよかったぁ・・・」

―――先生、そんなに嬉しいですか?

トリップしてしまっている先生に呆れながらも、夢にでてきた綺麗な少年の事を思いだした。

「じゃあ僕は・・・」

「志貴は志貴。彼は彼だ。彼は志貴に干渉するつもりはないそうだ・・・志貴をとても大事に思っている」

「え?」

一瞬、あの夢の視線を思い出した。

あのジッと見つめる優しい目・・・アレは、僕に?

「どうした?」

「いえ・・・僕ってみんなに守られているんだなぁって・・・」

「そうだな・・・それだけ志貴の事が好きだという事だ。私も、そこでトリップしている愚妹もな」

お姉ちゃんは眼鏡を外し、僕の頭を撫でる。

僕はその手をとって甘えるように頬摺をし、手の甲に軽くキスをした。

「お姉ちゃん・・・ありがとう・・・・・・」

「志貴、私達はどんな事が起きても志貴の味方だ・・・だからもっと甘えてくれ」

「そうよ。志貴は私達の恋人なんだからね」

トリップから戻ってきた先生はそう言いながら僕の頬にキスをした。

「ん・・・先生もありがとう・・・」

その後、僕は二人に抱き締められ、緩やかな時の流れを楽しんだ。