一日一日が過ぎ、約束の一週間が過ぎようとしていた。

僕はお姉ちゃんから色々なことを教えてもらった。

時には優しく時には厳しくお姉ちゃんは僕がこの目のことで困らないように色々な知識や生き抜く術を教えてくれた。

そして約束の一週間───その日が来た。

「志貴、迎えに来たわよ」

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

ニコニコしながら先生が現れた。

何故だろう・・・その顔はすごく嬉しそうだった。

「志貴、会いたかった・・・」

先生は目を潤ませて僕に抱きついた。

「ぁ・・・く、苦しい・・・・・・」

僕は先生の胸に顔を埋められて息が出来なかった。

「志貴が可愛くって可愛くって・・・ああ・・・ずっと一緒にいなかったから禁断症状まで起こしたのよ?」

「その禁断症状を沈めるために街のラブホテルを全て破壊したのか?」

チロリと先生を睨むお姉ちゃん。

「何故そんなことをしなきゃいけないの?」

先生はお姉ちゃんが睨んでいるのに平気な顔で聞き返した。

「──────調査を依頼されたぞ」

「・・・・・・・・・愛故によ」

よく分からない答えを先生がお姉ちゃんにすると

「そうか。深くは問わん。適当な魔術師を吊し上げておくぞ」

「珍しく優しいのね」

「フン、志貴の為だ。自分が先生と呼んでいる人物がテロリストだとすれば落ち込むからな」

───やっぱり姉妹なんだ・・・話が通じてる・・・

僕はすごいなぁと思いながらお姉ちゃん達の会話を聞いていた。

「テロリストじゃないわよ」

「―――ではラブホテルの件とは別に数カ所のデートスポットが何者かに完膚無きまでに破壊されているという件は・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「これも巡り巡ってうちに来たぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

―――何だろう・・・凄く、息苦しい・・・・・・

何だか凄く息苦しくて僕はこの部屋から逃げたくなった。

先生もお姉ちゃんの言葉に僕を見た後、力無く項垂れている。

「ずっと姉さんと一緒で私が会いに来ても居ないし・・・志貴の顔を見ないだけでどんなに辛いか・・・わかる!?」

あ、先生が切れた・・・

「―――む、確かに・・・・・・」

「お、お姉ちゃん?」

二人とも、僕のことを好きでいてくれる・・・?

「しかし・・・志貴を帰さなければ色々と問題が生じる。それは分かっているな?」

「――――――私は帰したく、無いわ」

「・・・他の作品で充分に楽しんでいるだろうが・・・少しはよこせ」

「そんな世界を壊すような台詞を言わないで、姉さん・・・」

ボソボソと何か話をしていたけど、それが終わった時、二人とも僕の方を向いた。

「さて・・・やはり一週間では教え足りないこともあった。だが身体の状態や色々な事情が重なってな・・・君を一旦病院に帰すことにする」

「え・・・?」

「ほら、そんな泣きそうな顔しない。病院は今日の午後退院の予定らしいけど、家に戻らずに有間と言う家に預けられることになったらしいわ」

「・・・やっぱり・・・・・・」

何となく分かっていた。

だって、あの怪我は事故なんかじゃないから・・・・・・

「有間家は良い家庭だから安心しろ」

お姉ちゃんは僕の頭に手を乗せて優しく撫でてくれた。

「ん」

僕はその感触の気持ちよさに目を閉じて頷く。

「それで―――だ。魔眼も別の回路で補えるから問題はないのだが、それだけでは対処出来ない事態に備えたい。まぁ、すぐには起きないと思われるが偶にでも良いから此処に来て魔術の勉強をしないか?」

「―――良いの?お姉ちゃん」

「ああ、もちろんだ。いつでも来い」

お姉ちゃんはそう言って銀のブレスレットをくれた。

「これは私の自信作だ。私の所に来たくなったらそのブルーストーンに向かって私の名を呼べ。すぐに来てやる」

僕はそれを腕に着けてブレスレットを撫でる。

これがお姉ちゃんとの大切なつながりだから―――

「あ、ずるい」

「お前は向こうに戻らないといけないのだろう?」

「・・・・・・良いもん、偶に志貴に会いに来るから」

先生が僕を抱き締める。

「あ、あぅ・・・・・・」

また胸を・・・苦しぃ・・・・・・・・・

僕は酸欠のために意識が飛びかけた。

「ッといけない」

先生は僕が苦しいのが分かってくれたのか離してくれた。

そして先生は僕をお姉ちゃんの方に体を向けさせる。

「名残惜しいがしばしの別れだ。私とはいつでも会えるしソレが私との繋がりとなるだろう。では・・・達者でな」

「橙子お姉ちゃん・・・ありがとう・・・」

もう、お別れなんだ。

でも泣いちゃいけない。また会えるから

僕は精一杯の笑顔でお姉ちゃんに笑いかけた。

「ッ――――――」

お姉ちゃんが小さく震えながら後ろを向いた。

「青子・・・頼んだ」

「OK、じゃあね」

先生が後ろから僕の肩にそっと手を置く。

そして視界が反転した。

 

あの草原に僕達は立っていた。

「志貴、此処でお別れだけどこれだけは言っておくわ」

先生は僕の肩に手を置いたまま言葉を紡ぐ。

「力は力を呼び寄せる。いい? ピンチの時はまず落ち着いて、その後によくものを考えるコト。そうすれば大抵のことは普通の力で切り抜けられるはずよ」

「先生・・・」

僕は先生の方に振り返ろうとした。

けど、先生は手に力を入れて僕の振り向かせようとはしなかった。

「志貴・・・今志貴の顔を見たらお別れ出来なくなるから・・・でもサヨナラは言わないから・・・またね、志貴」

そう言って、肩に置いていた先生の手の感覚が消えた。

僕は急いで振り返ったけど、先生はそこには居なかった。

「―――またね、先生・・・・・・」

僕はそう呟いて病院へと戻った。

そして時は動き―――