昨日、今日魔術の特訓をするって橙子お姉ちゃんが言っていた。

僕は先に起きてドキドキしながらお姉ちゃんが来るのを待っている。

でも不思議だったのは僕、いつの間に眠っちゃったんだろう・・・お姉ちゃんと眠っていたし・・・

少し考えてみたけどやっぱり思い出せなかったから諦めた。

「───志貴」

暫くして、お姉ちゃんは何故か顔を真っ赤にさせながらやってきた。

「昨夜はその───スマンな。アルコールなんか飲ませてしまって」

「?」

そう言えば目が覚めるとお姉ちゃんの横で眠っていた。

昨日のお店に出されていたジュース、少し苦かったけどお酒だったんだ・・・。

でもどうして顔が赤いのかな・・・あれ?

「橙子お姉ちゃん」

「な、何だ?」

「首、虫さされがあるよ?」

「!!!」

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

カチャリ───と、お姉ちゃんは眼鏡を外した。

眼鏡を外すと別人のような感じがした。

でも、怖くない。優しい目をしているから。

「そう───これは昨日君がつけた痕よ」

「?」

よく分からない。

僕は首をひねった。

「ごめんなさい・・・」

お姉ちゃんを叩いたのかもしれない。

そう思ったけど何か違う気がした。

「謝らなくてもいい。それに───」

お姉ちゃんは姿勢を低くして僕と同じ高さに目線を合わせた。

「今度は私の番だから」

そう言いながら僕の頬に手を添え

チュッ───

唇を奪われた。

「ぁ・・・」

僕はビックリして動けなかった。

お姉ちゃんは目を細めてビックリしている僕の顔を見て小さく笑った。

「───こうしてつけたんだ」

ゆっくりと僕の首筋に唇を近付ける。

そして

ピチャッ

「んっ・・・」

お姉ちゃんは僕の首筋を軽く舐め、

チュッッ

「っ・・・」

首筋を強く吸われた。

「ほら、私と同じ痕が出来たぞ」

僕は慌てて近くにあった手鏡で自分をのぞいてみた。

「ぁ・・・」

僕の首にお姉ちゃんと同じような痕が出来ていた。

「さて、軽い遊びはここまでだ。これから色々と教えなければならないことがある」

お姉ちゃんはさっきまでとは全く違う無表情で僕を見る。

「まず、魔術回路が目に集中しているのは如何ともしがたい。従って少々強引な手を取らせて貰う」

お姉ちゃんはそう言うと僕の首下に手を伸ばした。

「?」

「そう怯えるな」

お姉ちゃんがそう言った瞬間、

チクリ―――

「っ!?」

首か頭か分からない部分に針の刺さったような痛みがはしった。

「志貴―――まずは仮死状態になってもらう・・・」

「っあ・・・・・・」

僕はお姉ちゃんに何か言おうとしたけど舌が痺れて何も言えない。

そしてすぐに頭の中が暖かくなって僕は意識を失った。

 

「―――流石に辛いな・・・瀕死の状態で何者かがかけた共有か・・・謎は深まるばかりか」

志貴をベッドまで連れて行き、ゆっくりと寝かせる。

魔術師の目で志貴を見る橙子だったが、その瞳に宿る光が不意に揺らいだ。

「速攻で行くしかないか」

橙子はため息を吐くと詠唱を始める。

独特のテンポの詠唱は室内に反響し、其処に数人の橙子が居るように錯覚させた。

一定のテンポを持っていた詠唱が不意に早くなり、やがて言葉かどうかすら判別できないほど早い詠唱に変わってゆく。

そして―――

室内は数百、数千のフラッシュを同時に焚いたような閃光に包まれた。