「あ、あの・・・」

「ン?何だ?」

「まだ名前を聞いていないんですけど・・・」

「ああ、わたしの名は蒼崎橙子。お前を連れてきた蒼崎青子の姉だ」

その女性───橙子お姉ちゃんはそう言って机の引き出しをあけた。

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「えっと・・・じゃあ、橙子お姉ちゃん・・・で、良いですか?」

僕は橙子お姉ちゃんの顔色をうかがいながら聞いてみた。

・・・うわぁ・・・やっぱり可愛いにゃあ・・・

───何か、目が潤んでますけど・・・聞いてますか?

「───あ、ああ・・・君にプレゼントがある。この眼鏡だ」

そう言って縁の薄い眼鏡を僕に手渡してくれた。

「僕───目は悪くないですけど・・・」

「良いからかけろ。これは君のその魔眼を封じるための眼鏡だ。度は入っていない」

橙子お姉ちゃんは苦笑しながら僕から眼鏡を取ると僕にかけてくれた。

途端、

「わぁ・・・線が・・・線が見えなくなった!」

僕は嬉しくてその眼鏡をしっかりと押さえた。

と、眼鏡がずれて肉眼で外の景色を見た。

「あ、あれ・・・?線が見える・・・」

僕は眼鏡を外したり掛けたりしてみる。

「その眼鏡は魔眼殺しといって特殊な素材を使っている。その眼鏡をかけている間だけは妙なモノを見ることもないだろう」

「こんな目・・・こんな怖い目いらない・・・・」

僕はギュッと目を瞑り橙子お姉ちゃんに抱きついた。

「今は要らなくてももしかすると必要になるときが来るかもしれない・・・無駄なモノなんて無いんだ。それに、そんなに綺麗な瞳を傷つけたいか?」

橙子お姉ちゃんは両手で僕の両頬をフワリと包むと優しい声でそう言いい、眼鏡を外すと僕の瞼にキスしてくれた。

「でも・・・本当に貰っちゃっていいんですか?」

僕は橙子お姉ちゃんが眼鏡を掛けてくれたのを確認するとゆっくりと目を開けた。

「ああ。君にならあげても良いだろう・・・さて、問題はもう一つ。君の体についてだ」

橙子お姉ちゃんは立ち上がると机の上にぞんざいに置かれていた書類の山から中央をクリップで留められた数枚組の紙を取り出した。

「君の性転換の件だが・・・詳しく調べていないから何とも言えんが特殊な力を持つモノが君の体をそのようにさせているという可能性があるな」

「?」

僕は言っている意味が分からないので首を傾げた。

ああっ・・・近くで見るとやっぱり可愛いにゃぁ・・・・・・

橙子お姉ちゃんはまた目を潤ませて僕をジッと見つめる。

───まぁ、何か悪い気はしないから良いけど・・・

「えっと、僕の体は治るかもしれないって事ですか?」

僕は橙子お姉ちゃんに質問してみた。

「そうだ。ただ・・・もう少し詳しく君の体を調べないといけないが・・・良いか?」

「はいっ!・・・あの、僕の名前は志貴です。できれば名前で呼んで欲しいんですけど・・・」

「ン?ああ、そうさせてもらおう。改めてよろしく、志貴」

橙子お姉ちゃんはニッコリ笑うと僕の頭を撫でてくれた。

 

「しまった・・・一週間姉貴と私の志貴が寝食を共にする・・・」

青子は今更ながらそのことに気付き愕然とした表情になる。

「あああああっ!!!志貴と同じベッドで寝たり志貴にあーんしたりされたり!ああもう羨ましいったら!!・・・・・・・・・・・・・あああああっっ!!!もしかするとお風呂まで!!??」

今まで青子を知る者がいたら己の目を疑っただろう。

落ち着き無くウロウロと部屋の中を徘徊し、時折妄想じみた台詞を吐くその姿を見たことになるのだから・・・

「私だって志貴にあーんしたい・・・ほっぺたにご飯粒付けてキョトンとした志貴の頬から唇でご飯粒取ってあげたり・・・風呂場で洗いっこしたり・・・そのまま・・・・・・ああっファンタスティック・・・」

妄想が限界に来たのか青子はベッドにバタリと倒れた。

「考えれば考えるほど自分が痛いわ・・・寝よ」

青子は深々とため息を吐き、そのまま眠った。