「今日はちょっとつき合って貰うわよ。志貴」
先生は開口一番にそう言うと僕の腰に手を回し、僕を抱き上げた。
お姫様を抱き上げる王子様って言うのかな・・・でも抱き上げられているのは僕だから僕がお姫様・・・
「柔らかい・・・」
先生は僕を抱き上げたまま頬擦りしてきた。
「あ、やあっ・・・」
僕はくすぐったくて身を捩って先生から逃げようとした。
PANIC
「逃がさないわよ、志貴」
逃げようとする僕の尾てい骨周辺を指先でなぞってきた。
「は、あああっ」
妙な感覚にビクビクと震える僕に先生はウットリとした表情をする。
「ここ?ここが感じるの?志貴・・・」
先生は耳元で嬲るように言いながら何度もなぞる。
「はぅぅぅっっ・・・」
その吐息にも僕はビクビクと反応してしまう。
「志貴・・・感じやすいのね・・・目、瞑って」
僕はその言葉に抵抗できず、目を瞑った。
チュッ、チュッ
先生は僕の両頬に軽く口づけをした。
キスされた頬が何故か暖かくて僕は目を開けて先生の頬に先生がやったようなキスをした。
「し、志貴!?」
先生は驚いた顔で僕を見る。
「僕、うれしかったから先生にお返ししたんだけど・・・イヤだった?」
僕の台詞に先生の顔は真っ赤になった。
「志貴・・・早く男の子に戻れるようになると良いわね・・・」
「うんっ」
僕は力一杯頷き、もう一度先生の頬にキスをした。
「志貴ったら・・・」
先生は顔を真っ赤にして僕を抱きしめると、
「もう一度、目を瞑って・・・」
そう言われたので僕は言われたとおりに目を閉じた。
ザアアアッ───
風の音が聞こえたその直後、方向感覚がなくなってしまった。
「はい、到着。もう目を開けても良いわよ」
先生の声が聞こえ、僕は恐る恐る目を開けた。
「・・・ようこそ、伽藍の堂へ」
キュッと地を何かが滑る音がして前方の大きな肘掛け椅子がクルリとこちらを向いた。
そしてその椅子には眼鏡をかけたスーツ姿の女の人が座っていた。
「姉さん・・・そんな凝った演出しなくても・・・」
「私とて好きでしているわけではない。調べなければならない資料に目を通していたらお前が来た。ただそれだけだ」
「ふうん・・・志貴は含まれていない訳ね・・・」
「その子は客だ。扱いには雲泥の差があるぞ」
「あら冷たい」
「お前が・・・言うか?」
その女の人は眼鏡を外し、鋭い視線を先生に向けた。
「ごめんなさい・・・」
「「は?」」
二人は何のことか分からないと言った顔で僕を見る。
「だって僕のせいでケンカしているんでしょ・・・僕、迷惑みたいだし・・・」
「・・・・・・・・・休戦」
「・・・・・・・・・そうね」
二人は同時に頷くと僕をジッと見る。
「志貴。私達はまず君の魔眼について何とかしようと思っている。その魔眼は直死の魔眼と言って万物全てのモノの死を見ることの出来る目なの」
先生は僕の側に来て僕の頬をそっと撫でた。
「そしてその目を使う度に君の寿命は削られていく・・・魔力の少ない人間なのだから当然だが・・・」
眼鏡をかけ直し、お姉さんは僕を見る。
「・・・え・・・?じゃあ・・・僕・・・死んじゃうの?」
「イヤ、そうさせはしない。そこでだ・・・今日から暫くここに住まい、ちょっとした訓練を受けて貰おうと思う」
「なっ!?―――どう言うつもり?」
「今この子にある程度の力を持ってもらわなければ魔眼殺しを着けても長くはもたん。だから力の制御法とこの子の眠っている本来の回路を開ける」
「なら私でも・・・」
「お前では出来ん。人にものを教えるのは不得手だろうが・・・任せておけ。一週間後には魔眼殺しの眼鏡を着け、魔術師見習い程度の力を有した姿で会わせてやろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頼んだわよ」
「ああ。全力で取りかかるつもりだ」
お姉さんは僕の肩にポンと手を乗せると、
「暫くここに泊まり込みだ。拒否はゆるさんぞ?」
そう言って僕に微笑みかけてくれた。
「は、はいっ・・・宜しくお願いします」
「と言うわけで関係者の方は誤魔化しておいてくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・了ー解」
先生はガックリと項垂れ、部屋を出ていってしまった。