「姉さん、来てやったわよ」
青子はドアを蹴り飛ばしながら室内にはいる。
部屋の奥、暗がりの中から影が動く。
「わざわざ殺されにやってきたか」
その声は怒気と殺意に満ちた女性の声だった。
PANIC
「せっかくいい情報を持ってきてやったのに」
「いらん」
即答だった。
「あらそう?偶然見つけた魔眼持ちだけど・・・直死の魔眼を保っているのよ?」
「・・・・・・何?」
「それともう一つ面白いことに」
青子は一枚の写真を取り出すと暗がり目掛けて投げた。
写真は生き物のように暗がりの中へと吸い込まれていく。
パシッ
「・・・・・・幼い女の子か」
「残念。その子、実は男の子よ」
「馬鹿な。この年で性転換も無かろう・・・」
「この子・・・遠野志貴は戸籍上も確かに男だった・・・しかし、事故がきっかけで直死の魔眼を保有し、副作用か何かで性転換が起こってしまったようよ」
「・・・・・・」
返事がない。
「姉さん?」
青子は暗がりの奥にいる女性を見ようと目を凝らした。
「───一度連れて来い。興味が湧いた」
闇の奥深くにいるせいか僅かな輪郭しか見えなかったが、興味を持っているであろうコトは確認できたので青子はそれ以上深くは言わなかった。
「分かったわ。近いうちにでも連れてくるわ」
それだけ言うと青子は踵を返し出ていった。
バタンッ
ドアが閉まり、完全に人気が無くなった時、暗がりから女性のため息が聞こえた。
ボッ、ボッ・・・
女性の両隣にあった燭台に火が灯る。
そこには眼鏡をかけた女性が一人座っていた。
手には先ほど投げられた写真。
それをじっと見ていた。
「───可愛いにゃぁ・・・奴のことを信じるなんてよほど素直な子なんだろうなぁ・・・あんな巫山戯た妹よりこの子が良いなぁ・・・弟にもなるし一石二鳥かぁ・・・でも成長したときの姿も・・・ああ・・・早く現物を見たいなぁ・・・」
その瞳は潤み、顔は弛みきっていた。
協会から封印指定魔術師とされている女性───蒼崎橙子。
実の妹があまりにもアレな為、心の奥底から素直で可愛い妹か弟が欲しかったのだ。
「今回だけは奴に感謝しなければな・・・ああっ・・・一緒に風呂に入りたいにゃぁ・・・」
橙子は写真をいつまでも飽きることなく熱い眼差しで見つめていた。
青子は大きな誤算をしていた。
一つは姉、橙子を見誤っていたこと。
そしてもう一つは───
「魔眼殺しの眼鏡は黒縁かなぁ・・・志貴なら薄い黒縁が萌え萌えよねぇ・・・ああっ、少し大きめにすると更に良いかも!」
志貴に萌えてしまっている青子自身だった。
「・・・・・・どうして僕だけ個室になっているかなぁ・・・」
シャワーから出た志貴は個室となっている部屋を見てそう呟いた。
「しかも知らないヌイグルミまで置かれてるし・・・」
ベッドの枕元には小さいヌイグルミが大量に置かれていた。
「・・・どうしても僕を女の子にしたいのかな・・・」
志貴の心に一つの決意が芽生えた瞬間だった。
その決意とは───体は女の子でも男であるという意志だけはしっかり持っていよう───と
「早く会いたいな・・・やっぱりお姉ちゃんって呼んで欲しいなぁ・・・」
「しまった・・・志貴の萌え萌えなパジャマ姿と寝顔を撮ってない!」
「んっん・・・・・・んみゅ・・・・・・」
三人の夜は更けてゆく・・・