「そう言えば志貴の性格って元からあんな感じだったのかな?」

寝そべりながら本を読んでいた青子が事務処理をしていた橙子に問う。

「何を突然言い出すのかと思えば───」

「ただの妄想よ。志貴のあの可愛らしい性格が七夜時代、男の子だった頃からあのまんまだったとか」

「それなら────父親、確か七夜黄理だったか・・・もあんな感じだったというのはどうだ?」

食い付いてきた橙子に青子はニンマリと笑うと「良いわねぇ」と頷いた。

「今ある情報から推測して妄想すると・・・」

そう言って青子は語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七夜黄理は困り切った表情をしていた。

手には真っ二つに切れた花瓶。

「無意識のことだったんだからそんなに怒らなくても良いと思うんだけどなぁ・・・」

切れた花瓶を弄りながら呟く黄理に一人の少年がパタパタと駆け寄ってきた。

「おとーさん、どうしたの?」

「ん?お父さんまたドジしちゃったんだ。ほら、落ちてきた花瓶を思わず切っちゃったんだ」

そう言って黄理は少年───志貴に切れた花瓶を見せた。

「わぁ、すごいね」

志貴は花瓶を見て目を輝かせる。

「僕もこんな風に花瓶切ってみたいな」

そう言いながら花瓶をペタペタ触っていた志貴だったが、

「あっ・・・」

切断面をなぞった際に指先を切り、血が流れた。

「ははは、志貴はそそっかしいな」

黄理は苦笑しながら出血している志貴の指先をチロリと舐め、そのまま口に含む。

「おとーさん、もう大丈夫だと思うよ?」

暫く口に含んでいた指を黄理はソッと口から放す。と、

「あ、血が付いてる」

志貴はそう言って黄理の口の端をペロリと舐m─────

 

 

「こっちが色んな意味で出血しそうよ!」

「・・・だな。そのまま禁断の世界に突入しかねない」

ハァハァと少し荒い息をしながらも二人はまだ続ける意志を見せていた。

「今度は私だな。そうだな・・・二人で修行している光景を妄想するとだな・・・」

そう言って橙子は語り出した。

 

 

鬱蒼と木々の生い茂る森の中。

鳥の鳴き声も獣の息遣いもない。

薄暗い森の中で聞こえるのは金属のぶつかり合う甲高い音と地面のすれる音、そして少年の荒い息づかいだけだった。

荒い息を吐きながらも各方向からの連撃を全て避けていた志貴だったが、攻撃を避けきったという気の弛みからか木の根に足を取られた。

「っ!」

志貴は咄嗟に腕を前に突き出したが、

「っ、と」

志貴は地面に倒れることなく黄理に抱き上げられた。

「志貴。危なかったな」

「うん。ありがとう、おとーさん」

修行の間は感情を一切表に出さず、志貴を鍛えていた黄理だったが、修行を終えれば優しい父親だった。

「志貴は頑張る偉い子だね」

「うん、僕おとーさんみたいに強い人になる」

「出来れば俺を追い越して欲しいな」

黄理は志貴の頭をクシャリと撫でる。

「お昼は原っぱでお弁当だ」

「僕ね、おかーさんとおにぎり作ったんだよ」

「そうか。じゃあ志貴の作ったものから食べたいな。おかかはあるかな?」

「うん!僕おかかも梅も作ったんだよ」

「それは楽しみだ」

黄理と志貴は森の真ん中にポッカリと空いている草原に着いた。

そこで二人は弁当箱を開いておにぎりを頬張る。

「おとーさん、美味しい?」

「志貴の作ったおにぎりだ。美味しくないわけがないじゃないか」

不格好のおにぎりを美味しそうに食べる黄理に志貴は嬉しそうに頷く。と、

「おとーさん」

「ん?」

「ほっぺにご飯粒」

「ああ。取ってくれないか?」

黄理の言葉に志貴は頷いて頬にキスをして頬に付いていたご飯粒をとった。

「えへへ・・・」

「志貴は可愛いな────志貴もご飯粒がついているぞ」

「え?どこ?」

「ここだ」

そう言って黄理は志貴の唇n─────

 

 

恥ずかしいを通り越して苦しいわ!!

叫ぶ橙子。

「も、萌え死んでしまう・・・・は、鼻血・・・・・」

そして鼻を押さえてティッシュを探す青子。

「はい」

「あ、ざんぎゅ・・・・・」

渡されたティッシュの箱を受け取り、青子は動きを止める。

そこにはニッコリと微笑む志貴が居た。

ただし、目は笑っていない。

「先生も橙子さんも・・・・・何を妄想しているのかなぁっ?」

「志貴・・・・目が笑ってない」

「その怪しげな手の動きしていたらよく分からなくても怪しい話って分かりますよ」

「あの、いつからここにいらしたんでしょうか」

橙子も怯えた様子で志貴に尋ねる。

「僕の本当のお父さんが七夜黄理って人だって所から」

「全部だ・・・・・」

ガクリと項垂れ、失意体前屈をする青子と、

「最悪よ・・・・お姉ちゃんとして最悪の所を・・・・・」

その場に倒れ込むように頽れる橙子。

「えっと・・・・あの、大丈夫だよ」

志貴の科白に二人は顔を上げる。

そして

「二人が変だってみんな分かっているし、言動や行動がおかしいのは今に始まった事じゃないから気にしてないよ」

その科白がトドメだった。

 

 

「─────なあ」

「ン?何?」

「橙子のヤツ、どうしたんだ?」

「所長は過去を清算するって言って妹さんと山に入ったよ」

「はぁ?」

「志貴くんにどうしようもない所を見られたらしくてね・・・・・御祓をしてくるのだそうだ」

「あの二人がか?あの二人から志貴好きを取ったら駄目人間な部分しか残らないと思うが」

「ま、耐えられずに二、三日したら帰ってくるんじゃない?」

幹也と式がそう話し合っている最中、

「写真一枚無いのは耐えきれないわ!!」

「しーちゃんの所持品一つ身に着けていないのは耐え切れん!」

その問題の二人がドアを蹴破って入ってきた。