「母の日はカーネーションあげたから父の日には・・・・・・・」

何をあげれば良いんだろう。

考えていると都古ちゃんが僕の服を引っ張った。

「都古ちゃん?」

「ん」

そう言って僕に貯金箱を差し出した。

 

 

 

 

 

 

PANIC

 

 

 

 

 

「どうしたの?」

「おとーさんの日」

どうやら都古ちゃんは貯金しているお金を使っても良いと言っているようだけど、

「それは使わないでおいた方が良いと思うな」

そう言ったら都古ちゃんは少しむくれた顔をした。

「無理して高いものを買ってもお父さんはきっと心から喜んでくれないと思うんだ。むしろ心配するんじゃないかな」

「・・・・・・・・・」

貯金箱を抱きしめる都古ちゃんの頭を撫でる。

「ちょっと待っててね」

僕は母の日同様意見を聞きに部屋を出た。

 

 

「あの人の欲しがりそうなもの?」

キッチンでお昼ご飯を作っていたお母さんに聞いてみた。

「うん。あまり無理は出来ないけど、父の日だから」

「そうねぇ・・・・・墓標なんてどう?」

お母さん、本気の目でそんな事言うのはちょっと・・・・・

「墓標はちょっと・・・」

「墓標を二本買ってあげたらあの人は喜ぶと思うわよ。名前は「もうお母さんには聞かない。お父さんは真面目に答えてくれたのにお母さんはそんなに酷い人なんて知らなかったよ」」

僕はキッチンを後にした。

何か後ろで叫び声が聞こえたけど気にしない。

「とは言っても予算は4〜5千円だしなぁ・・・」

限界でも1万円・・・・・はとても辛いな。

部屋に戻って都古ちゃんと考え直す事にした。

「ネクタイ」

部屋のドアを開けた瞬間、都古ちゃんが僕に向かってそう言った。

「ネクタイかぁ・・・それならハンカチセットであげても良いかもね」

うん。決まった。

僕達はネクタイとハンカチを買いに出る事にした。

 

 

商店街の奥にある紳士服の店に行く。

父の日だと言うのにお客さんが居ない。

商売っ気がない所為もあるけど、ここのおじさんはいつも気に入ったお客さんしか相手にしないからあまり人が寄りつかない。

因みに僕の男物の服の大半はここで作ってもらっていたりする。

「ごめんください」

店の奥、裁断台の側で新聞を読んでいた初老のおじさんがチロリと僕達を見る。

「お、嬢ちゃん達。父の日のプレゼント探しかい?」

「はい。お父さんに合うハンカチとネクタイを買おうと」

「ほう・・・・あの親父さん、スーツ着た事あるのか?」

「・・・・さぁ?」

そう言えば見た事がない。

いつも黒い襟無しシャツとかだし・・・

「まぁ、いいさ。あの親父さんに似合いそうなモノを嬢ちゃん達が買ってプレゼントすりゃああの親父さんもジャケットを買ってくれるだろうしな」

おじさんはニッと笑うとネクタイのコーナーへと向かった。

 

 

お父さんに似合いそうなネクタイ二本とハンカチを選んで、付いていた値札を素早く千切るとおじさんはレジへと向かう。

日頃鍛えられているせいか、値札はしっかりと見えた。

────ちょっと、高すぎませんか?全部で一万円は軽くオーバーしますけど・・・

不安げな僕の顔を見ておじさんは苦笑しながらレジのキーを叩く。

「まぁ、今回はお得意さんだけに5000円にしておくよ」

「良いんですか?高そうなモノでしたけど」

「なぁに、学生身分で万札出させるわけにもいかねぇからな」

おじさんはそう言って丁寧にネクタイとハンカチを分けてラッピングすると、都古ちゃんに商品を手渡した。

「何か・・・済みません」

僕は5千円渡し礼を言うとおじさんは困ったように笑い、

「在庫処分に協力してくれたと思えば良いんだよ」

そう言って椅子に座り、新聞を広げた。

「おじさん、ありがとう!」

心から御礼を言って僕は都古ちゃんと家へと急いだ。

「───まったく、アレも丸くなるわけだよ・・・」

店を出る直前におじさんがそう呟いたのが聞こえた気がした。

 

 

夕食を終え、いつものように道場で一人稽古をしているお父さんに僕と都古ちゃんはプレゼントを持っていった。

「お父さん」

「志貴、都古もどうした?」

不思議そうな顔をするお父さんに僕と都古ちゃんは揃ってプレゼントを渡した。

「今日は父の日だから」

「・・・・・そんなに気を遣わなくても良かったんだが」

お父さんは嬉しそうな、困ったような、そんな複雑な顔でプレゼントを受け取った。

「・・・・」

都古ちゃんがジッとお父さんを見ている。

「ありがとう」

お父さんは都古ちゃんの頭をクシャクシャと撫でる。

ボフッ

都古ちゃんは嬉しそうにお父さんに抱き付いた。

「志貴も、ありがとう」

お父さんはそう言って僕の肩を優しく叩いてくれた。

 

 

 

 

 

「何だ。アンタか」

「アレに似合うスーツを作ってもらおうか」

「とっくに出来てるよ。まったく、あの子が買いに来なければここには来るなんてしなかっただろうが」

「ああ」

「子供にはとことん甘いな」

「・・・・まぁな」

「損な性格してるよ、アンタは」