「都古ちゃん、母の日のプレゼントは何にしようか?」
「・・・・あげない」
ありゃりゃ
都古ちゃんは小さくうめいてプレゼントをあげないことを宣言した。
「どうして?」
「おかーさん嫌い」
ムスッとした顔でそう言う都古ちゃんに苦笑する。
「僕はお母さんに母の日のプレゼントをあげようと思っていたんだけど・・・都古ちゃんにも協力して欲しかったなぁ」
都古ちゃんは僕をジッと見た後、
「・・・・・おねーちゃんと一緒なら、いい」
そう言ってくれた。
PANIC
「へぇ・・・で、プレゼントを考えている、と」
「うん。お父さんに聞いたらお母さんが欲しがりそうなものが分かるかなぁって」
道場の真ん中で瞑想をしていたお父さんに聞いてみた。
「五年前は妖刀を求められたな・・・その次は『鈍器のようなもの』、他には・・・」
何で武器ばっかり?
「───渡した直後に襲い掛かってくるからすぐに駄目になるがな」
お父さんはため息を吐く。
「妖刀の時も斬り掛かってきたの?」
「ああ。アレは流石に拙かった・・・正面からの一撃のはずが同時に三方向からの斬撃に感じられる殺気を保っていた」
お母さんも人間やめた強さだけど、お父さんはそれ以上に強いんだ・・・
だからこそお母さんの暴走があの程度で収まっているのかも知れない。
「・・・・お母さんに武器を渡すとお父さんに攻撃しそうだからあげない」
「良い子だ」
お父さんに頭を撫でられた。
「お前がくれるモノなら何でも喜ぶと思うぞ」
「それだから困るんだけど・・・」
振り出しに戻っちゃった・・・
どうしようかと思っていたら、
「基本的な花束なんてどうだ?」
お父さんが提案してくれた。
近所のお花屋さんへ都古ちゃんと一緒に行った。
「すみませーん」
「おや、志貴ちゃんじゃないか母の日のプレゼントかい?」
店の奥からおばさんが出てきた。
「はい」
「良いよ良いよ優しい子にはおばちゃんサービスしちゃうから」
「あははは・・・・それだと売り上げに響きますよ?」
でも、カーネーションが多いなぁ・・・
「おや、都古ちゃん。今年はお母さんにプレゼントしてあげるのかい?」
「おねーちゃんがするから・・・」
あ、少し不機嫌モード。
僕は都古ちゃんの頭を撫でながらおばちゃんにカーネーションを十本お願いした。
と、
「食用かい?」
「ふぇ?」
「だから、食用がいいのかい?」
「食・・・よう?」
食用って、何?
「あー・・・じゃあわたしが適当に見繕ってあげるから千円ね」
「え?でも、あの・・・」
一本百二十円とか書かれて・・・・
「最近の子は母の日にプレゼントなんてあまり考えてなかったり花なんて買わないからねぇ」
おばさんはそう言いながらすぐにカーネーションの花束を二つ作ってくれた。
「はい。こっちが志貴ちゃんの分でこっちが都古ちゃんの分」
「ありがとうございます」
「ありがとー」
僕は御礼を言って千円を渡す。
「いつもありがとうね」
おばちゃんが変な事を言った。
と、
「あ、あれ?」
いつの間にかお店の周りに人が集まっていた。
みんなカーネーションを買っている。
タイミングよかったなぁ・・・・
僕はそんな事を思いながら都古ちゃんと家路についた。
「はい、おかあさん」
「志貴・・・・・ありがとう」
お母さんは暴走せずにちゃんとカーネーションを受け取ってくれた。
「・・・・・」
都古ちゃんも無言だけどお母さんに花束を差し出す。
「都古も、ありがとう」
お母さんはそう言って都古ちゃんの頭を撫でる。
都古ちゃんはくすぐったそうだ。
その日は食卓の真ん中にカーネーションが飾られた。
お母さんは一度も暴走しなかったし、とても平和な一日が過ごせた。
けど・・・・・
ギィン、ギィンッ
「っ!流石石灯籠切りは伊達じゃないか!」
「殺す殺す殺す殺す!」
夜中に道場の方からもの凄い音がしたのは勘弁して欲しかったです。