私は黒蝶と名乗っている。

ユーラシア大陸と日本を主な活動範囲とするプロのヒットマンとして有名だ。

爆弾、狙撃、接近戦、毒物。

殺しの手段なら殆ど熟知している。

殺しを専門にしていた一族である以上否が応でもそれらを学ばされたと言った方が正確か。

獲物は逃さない。

例え逃がしたとしてもそれは長くは生きられない。

絶対的な恐怖の元、私の二つ名は闇の世界に広がっていた。

『黒蝶に触れるべからず』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───くっ・・・」

我を忘れてあの方を追っていたせいで死地に踏み込んでしまったようだ。

呪術効果のある怪しげなトラップゾーンへと踏み込んでいたのだ。

奇門遁甲の類か、今通ってきた道がない。

帰る場所も逃げる場所もないのだ。

状況判断能力と危機回避能力は軍人達より優れていると自負していた。

術師達の恨みをかった時もこの二つで何とか乗り切った。

その私が絶体絶命の危機に瀕していた。

いや、

絶対的な死期が迫っている。

確実な死が待ち受けている。

回避不能の死が其処にいた。

眼前には『破壊の魔女』ミス・ブルー

背後には『封印指定魔術師』蒼崎橙子

この二人に関しては見間違えるはずもない。

要注意人物の上位にいる者達だ。

今まで生き長らえていたツケがこんな形の反動で来るとは思っても見なかった。

「は、ははは・・・」

笑ってしまう。

たった一人で台地を盆地に変えた人間核弾頭だけでも最悪なのに・・・

よりにもよって蒼崎姉妹セットとは・・・何回殺されればいいのだろうか。

そんなことを考えてしまった。

さて、何故私がこのような形で待ち伏せされなければならないのだろうか。

無論聞かねばならぬ事。

「で、何故犬猿の仲と言われている蒼崎姉妹が揃って殺し屋風情の私の前に立つ?」

「あら、よく私達を知っているわね」

「周辺にいる魔術師は調べ尽くしたという訳か」

二人とも自分たちがどのような人物か分かっていて言っているのだろうか。

「早速だけど彼に今後近付かないで貰おうかしら」

「そして彼のことは忘れて貰いたい」

───何、を?

二人が何を言っているのか一瞬分からなかった。

しかし彼女らが指し示す人物とは恐らく・・・

「あの方の関係者だったか」

思考がどんどんクールになる。

冷静に考えてこの場を切り抜けねばならない。

どうすればいい?

どうすればこの場をやり過ごすことが出来る?

必死に考えるが全く妙案が出ない。

「消すのは簡単だが、妙な所で鋭い彼のことだ。其処に来ていたという土地の記憶をも感知しかねん。従って殺さずにこの場から、イヤ、この街から出ていって欲しいのだ」

蒼崎橙子それだけ言うと『外道との交渉は外道に任せる』と言って後ろに下がった。

「それに彼が殺さないと言った相手を殺すのは気が引けるわ。コレあげるから今のところは下がりなさい」

ミス・ブルーが私に向かって一枚のカードを投げた。

「・・・」

私はそれを受け取る。

どうせすぐにでも殺される身。今更小細工などせぬだろう。

そう思いながらカードを見た。

「!!!!!!!」

瞬間、体がビクリと震え、身を震わせた。

声が出せない。

息が荒い。

どうしようもない代物が其処にはあった。

直視してしまった。

嗚呼、なんてトンデモナイものを持っているのだこの魔法使いは。

「どうせ貴方も同胞なんでしょ?それなら私達に協力してくれるわね?でなければそれは返して貰うけど」

ミス・ブルーはそう言って意地の悪い笑みを見せた。

コレを目の当たりにして私が引けるとでも?

一度踏み込み、一度自覚すれば引き返せぬではないか。

それが魔道というモノか・・・

私の思考はそれ一色に染まり、他のことはすべて些細なことに思えた。

「───お望みのままに・・・」

気が付くと私はミス・ブルーの前に傅いていた。

「よろしい。もし以降私達に従うというならばコレも付けよう」

そう言ってミスブルーは私にもう一枚のカードを渡した。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

それは更に衝撃的だった。

そしてそれを切っ掛けに私は尽くすべき主を見出した気がした。

 

 

「───さっきのアレ、貰ってないぞ」

「ああ、はい、姉さん用は10枚ね」

「しかし・・・コレは・・・熱くなるな」

「熱くなって篤くなるでしょ」

「アレをあげてもよかったのか?」

「ふっ・・・カードにしたコレクションだけでも100は越えるわ」

「でかした。最近時計塔に行って籠もってやっていたのはコレだな?」

「無論よ。私がそれ以外で熱中するモノがあるとでも?」

「まぁ、良い・・・しかし・・・このシャワーシーンは・・・」

「それはとっておきの一枚よ。志貴も七夜も無防備だから・・・」

「「ふふふふ・・・」」