「よう遠野!暇なら俺と初夜を迎えないか?」
俺はいつもの小粋なジョークを飛ばしながらマイハニー(断定)遠野の肩に手を回す。
「はいはい逝かせてあげるよ」
遠野はそう言いながら俺の手を取り優雅に回転する。
それはもう俺とワルツを踊っているよ――――――
突然俺の体も反転する。
ミシミシと腕が軋み、気が付くと俺は地べたに背中を叩き付けられていた。
PANIC
「いつもいつも進歩がないね」
遠野が倒れている俺にそう言ってクルリと踵を返す。
「今日は学ランだったからな・・・」
偶に向うの母親が学ランを隠して無理矢理女生徒の服を用意してくれるらしい。
俺としては毎回それを望んでいたのだがそんな事を本人の前でいえばこんなモノの比じゃない。
両肩を外され、思い切り筋を痛めるようなナックルを喰らわせてくる。
綺麗な顔してその技のキレとスピード、そして破壊力は最凶だ。
少し前にわざわざ遠征に来たのかヤの付く自由業っぽい方が遠野をナンパしていた時、見えないほどの速さで右手が動き、次の瞬間には糸の切れた人形のようにそいつは地べたと熱い口づけをしていた。
周囲にはまったく見えていなかったかも知れないが、いつもくらい慣れている俺には遠野が何をしたのかよく見えていた。
遠野は下から上にスナップを利かせた拳をそいつの顎に打ち込み、当たった瞬間にぐいっと喉を押したのだ。
アレは間違いなく殺しの技だった。
そんな高度な技をああいった奴等には使うのに何故俺には倒す程度の技しか使わないのか・・・
俺は一つの答えに到達した。
俺って愛されてる?マジ!?だから遠野はあんなソフトタッチな攻撃しかしないんだな!?アレは俺に対する試練なんだな!?
あの拳を優しく受け止めて、
「馬鹿だな、俺だって男だ。志貴、君を守るくらいの力はもっているよ」
なんて言ったら遠野は目を潤ませて
「有彦・・・やっと気付いてくれた・・・」
な〜〜〜んて可愛い事言って俺に抱きついてきてサバ折りクラスの抱きつきで俺を昇天させる気だなチクショウめ!
うあ・・・鼻血が・・・
そうだ!今こそそれを実行する時だ!
俺の愛のニュータイプ三連戦でマイハニーを素直な剥き出しの裸の心でガッチリキュートだ!
「マイはに〜」
俺は遠野にそう言いながら近付く。
「フッ!」
遠野はいつも通り常人には見えそうで見えないような拳を繰り出す。
だがしかし!
今の俺はただの乾有彦ではなく乾κ有彦だ!
俺はその拳を優しく受け止め、
「馬鹿だな・・・」
そう決め台詞を言おうとした矢先、
俺の手首を返し、遠野は胸元に俺の手を持っていく。
オオオオ!!大胆な・・・!?
そんな事を思っているとギリッと手首を極められ、
トンッ
重心を崩された挙句に足を払われ、
ゴグッッ
「NO〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
見事に肩を外された。
「前言ったよね。次そんな事を言ったら酷い目に遭わすって・・・」
その時の遠野の顔はとても綺麗で、
とても怖かった。