俺が奴と出会ったのは小学生の時だった。
奴と会ったとき、俺は本能的に思った。
「ああ、こいつも壊れているな」と。
だから俺は奴と連むようになった。
俺と対等にやりあえるのはこいつしかいない。
俺にとって奴はライバルみたいなモノだった。
だが、
だがしかしな・・・
夏休みが過ぎて二学期になり、奴と会ったときに全てが音をたてて崩れてしまった。
奴は───遠野、いや、有間志貴は女の子になっていたからだ。
PANIC−(マイナス)1
担任と一緒に入ってきた時は転校生かと思った。
担任の後に入ってきた子は十人が十人「美少女」と認めるだろう。
それほど可愛くて魅力的な子だった。
野暮ったい眼鏡も魅力を引き出すアクセントになっているように思えた。
どこか影を持っているようなその表情はその子を儚く見せ、神秘性をも帯びさせていた。
恐らく全員そう思っただろう。
この子とお近付きになりたい───と。
だが、だがしかしだ。
うちの担任はそんな俺等の思いを裏切る台詞を発したのだ。
「・・・みんなと一緒に勉強していた遠野志貴くんです。事故のせいでこのような体になってしまったと言うことなのでみんな苛めないでください」
「何〜〜〜〜〜〜っっ!!??」
俺を含めたクラス全員が同時に叫んだ。
「暫くは通院しながら学校には通うそうなので休みがちになるかもしれないけど、よろしく」
奴はそう言ってペコリと頭を下げた。
休み時間、奴の周囲に洒落にならないくらいの人が集まった。
野郎共は興奮した顔で女になってしまった理由や本当に女かどうか口々に問う。
担任にあれほど苛めないようにと言われているにもかかわらずにいらん悪戯をして気を引こうとする阿呆まで出てきていた。
そんな中ヤツは困ったような顔をしながらみんなの顔を見回していた。
その表情はいつものヤツの顔だった。
「女になっても適応してるな・・・」
俺はそんな事を思いながらその人集りを眺めていた。
「何だよ!男女〜。お前ホントに志貴なのか?」
しかし、悪戯をして気を引こうとしている男子生徒の一人が無視されている事に腹をたて、馬鹿にし始めた。
―――マズイ。
そっちに気が行けば周りも間違いなく気を引こうと馬鹿にし始めるだろう。
そんな光景をよく見ていた俺は咄嗟に動いた。
俺が馬鹿な事をすればそっちに気が向くだろう。
そしてインパクトのあるモノを―――
俺はヤツの元に行き、周囲の空気を吹き飛ばすくらいの声で一発ギャグを放った。
「結婚しよう!!」
場の空気が固まった。
俺は危機を脱したと確信し、ヤツを見た。
瞬間、
俺の視界一杯にヤツの第二関節を曲げた突きが見え、
浮遊感と共に世界が反転した。
―――あ、こんな関係、良いかも―――
綺麗な一撃を眉間に食らった俺は意識を失う寸前にそう思った。
以降、ヤツをからかう阿呆はいない。
俺の二の舞になりたくないからだろう。
そして中二の正月以降、ヤツの周囲には妙なボディーガードが付いている。
もう、馬鹿な真似をしてヤツを守る必要もない。
だが、
俺はヤツと親友だと思っているし、ヤツにライバル宣言をした以上、俺はヤツが何であろうと側にいたいと思っている。
そして今日も、
「よう遠野!暇なら俺と初夜を迎えないか?」
そう言ってからかっては攻撃を喰らう楽しい一日を送っている。
それが俺にとって一番楽しいから―――