事のはじめは琥珀さんの悪質な悪戯だった。
「・・・・どうして僕がこれを着ないといけないのかな?」
「アハハ・・・・・志貴さん、目がマジです」
朝ご飯を食べて部屋に戻ってきたら部屋のど真ん中には綺麗なウエディングドレスが飾られていた。
「はうー・・・わたしはただのネゴシエイターです」
「企画したのも琥珀さんでしょ。テレビかなんかでこんなドレス来ている人見て思いついたとか」
「・・・・・・・・志貴さん、エスパー?」
うえでぃんぐ DE PANIC!
「いつもそうだけど、みんなは服を僕に着けさせて楽しい?僕みたいな奴が着けてみっともない姿を見て笑うって言うのは悪趣味だよ?」
「またご自分をそんなに卑下したら駄目ですよ!?」
琥珀さんがメッといつものポーズで怒る。
「・・・ご免なさい」
「それに、これはみなさんのリクエストなんです。これを着てみなさんの前に出てさえ下されば今までの貸しがチャラになるんですよ?」
「・・・・・・え?」
そんな、莫迦な・・・・・
「これは総意です。民主主義的に志貴さんには拒否権はありません。強制行使です」
「そんな民主主義という名を使った軍国的行為は・・・・」
「あは〜つべこべ言わず脱いじゃえー♪」
琥珀さんが跳びかかってきた。
「!!!」
咄嗟にそれを避け、窓から逃げ─────
「しまっ!」
窓はしっかりと閉められ、電子ロックまでされていた。
すぐにドアへと向かったが、ここもいつの間にか電子ロック形式となっていた。
しかもカードがないと開け閉めできないヤツだ。
「無駄ですよ。『すべてはこのための布石』ですよー」
「いま急に声が変わらなかった!?しかも怪しげな羽の扇を持ってるし!」
「ふふふふ・・・志貴さんがこれを着てくれなかったらわたしも志貴さんもここから出れません。カードは秋葉さまが持って外で待機してます。わたしがある方法を使ってゴーサインを出さないと秋葉さまは開けてくれませんよー」
「・・・・・・・・」
そんなに、僕を虐めたいの?
泣けてきた。
覚悟を、決めるかな・・・・
「分かりました。ちょっとの間だけですよ?」
「はい!」
琥珀さんは満面の笑みで頷くと、化粧道具を持って用意し始めた。
「─────っ・・・・」
琥珀さんが息を止めてゆっくりと後ろに下がる。
「・・・・終わったの?」
「・・・・・・・・・・・」
琥珀さんの返事がない。
三歩くらい後ろに下がった段階で僕を見て固まっている。
───そんなに滑稽なら笑えばいいのに・・・・
「・・・・・・・・・っ、はぁ」
あ、息した。
「志貴さん、似合いすぎというか・・・・・本当はお姫様では?」
「冗談ですよね?似合わないなら似合わないって言った方が僕的に心底楽なんですけど」
「まさか!これが似合わないって言ったらわたしは首を吊りますよ!?」
いや、そんな本気に言わなくても・・・・・
「でも、変でしょ?」
「変じゃありません!────とても美しいです・・・・サラサラの黒い髪と綺麗な肌。それにとてもスタイルが良くて・・・・もう、美を結集させたようで」
何となく、ムッと来た。
綺麗と言われることが何か嫌だ。
僕はそんなに綺麗じゃないのに、どうしてこんなに褒めるんだろうか。
「冗談は悪巧みだけにしてください」
「・・・・・・・・・本当なのに」
琥珀さんが何故か拗ねている。
「早くみんなに見せに行きませんか?これ、すぐにでも着替えたいんですけど」
「・・・・・・分かりました。残念ですがそうしましょう」
琥珀さんはそう言って胸元からコンパクトを取り出すと蓋を開け、中のボタンを押した。