僕には記憶がない。

 

 

 

僕には記録がない。

 

 

 

自分が何者であるか分からない。

 

 

 

気がついたら此処にいたのだ。

 

 

 

この草原に・・・

 

 

 

「やっと目覚めたか・・・」

―――え?

そこには一人の女の人が立っていた。

 

 

 

 

夜想曲

 

 

 

 

 

 

空には欠けた月が浮かんでいる。

今は夜。

そして僕の目の前に立っていた女の人は持っていたトランクに座り、僕の顔を見る。

「あなた・・・は誰?」

僕は寝ていたのかな・・・変な顔していたのかな・・・

僕の質問に女の人は少しだけ悲しそうな顔をした。

「―――何も覚えてない?」

「?」

僕、何か忘れているのかな・・・

・・・・・・・・・何も思い出せない。

あれ?

僕誰だろう・・・

僕は・・・・・・

おうちは何処?

あれ?

「・・・泣かない泣かない。男の子でしょ?」

その女の人は僕の頬を優しく撫でてくれた。

でもそんなこと言われても僕、自分のことが・・・・・・

トクン・・・

「ほら、泣かないの・・・泣きやんで・・・・・・」

その女の人は僕をギュッと抱きしめてくれた。

とても暖かかった。

「あの・・・僕のこと知っているの?」

僕は恐る恐る聞いてみた。

だってさっき『―――何も覚えてない?』って聞いていたからきっと僕のことを知っているんだ・・・

「―――ええ。君のことは良く知っているわ。君の名はね・・・志貴って言うの」

「・・・しき?」

「そう。遠野志貴。君は私のことを先生って呼んでいたのよ」

「せん、せい?」

「そ、私のことを君は先生って呼んでいたの。君とはとても深い関係だったわ。でも家族じゃないのよ」

「え?」

家族じゃないのは何となく分かる・・・

「家族については―――君はある事情でよその家に引き取られていたの」

「え?」

ナニヲイッテイルノカワカラナイ・・・

なんだか泣きたくなってきた。

「・・・・・・ごめんなさい。難しかったようね」

またギュッって抱きしめられた。

なんだか嬉しかった。

だから僕も同じようにやってみた。

「志貴?」

「・・・僕・・・」

この先生って人は僕を置いて行くんじゃないかって・・・そんな気がした。

「置いてかないで・・・」

「し、き・・・・・・いいの?」

「え?」

「君には家族がいるのよ?」

「でも、本当の家族はいないんでしょ?・・・だったら・・・」

僕は思いっきりギュッって抱きついた。

「・・・・・・・・・分かった。志貴。行こっか」

「・・・うん」

先生はため息を吐くと僕の背中を軽く叩いてくれた。

「さ、行こう」

立ち上がってそっと手をさしのべてくれた。

「うんっ」

僕はその手を取り、一緒に歩き出した。

 

 

「あのね・・・先生じゃなくて『お姉ちゃん』って呼んで良い?」

「え゛お、お姉ちゃん?!」

「・・・駄目?」

―――ゴクリ

「・・・駄目なら先生って「駄目じゃないッ!!」

「・・・良いの?」

「ええ。お姉ちゃんって呼んでもオッケーよ」

「ありがとう」

チュッ

「!!!」

「えへへ〜お姉ちゃん♪」

―――もう、放さないからね?志貴・・・