夜想曲

0〜想い

 

 

アルクェイド

 

 

 

―――多分わたしの目には『色』というモノが映ってなかったと思う。

世界中白黒だったと思う。

臭いとか暖かさなども無かったと思う。

そう。

今思えばわたしの知識はテレビでの学習と同じ事だった。

けれどそれでよかった。

死徒を倒し、城に戻って次の死徒が出るまで眠りにつく

それだけだったから。

でも

志貴はそれじゃダメだと教えてくれた。

興味を持って

色々体験して

それで本当に『知った』事になるんだって―――

でもね・・・志貴、

志貴がいないと

志貴が一緒じゃないと楽しくないの。

どうして?

一人で食事をしたけど余り美味しいって思わなかった。

どうして?

わたしの知識にこの感覚と一致する言葉があった。

それは

 

 

『寂しい』

 

 

寂しい・・・寂しいよ・・・志貴・・・・・・

どうして消えたの?

何処に行ったの?

みんな寂しがってるよ?

シエルも

妹も

双子のメイド達も

みんな寂しがっているんだよ?

だから・・・・・・

帰ってきて・・・・・・

 

 

 

シエル

 

 

 

遠野くんが消えてもう一ヶ月が過ぎました。

本来ならば任務を終えたわたしも帰らねばなりませんが・・・

日本にいます。

アルクェイドと共に遠野家にお邪魔しています。

アルクェイドが日本にいる以上、わたしもここを離れるわけにはいかないと教会を説得しました。

わたしの『不死』の能力が消えたので興味を失ったのか教会側はあっさりと許可をくれました。

ですからわたしは日本にいます。

恐らくアルクェイドは遠野くんが帰ってくるまでここにいるでしょう。

わたしもそのつもりです。

遠野くんの居ない世界なんて・・・大切な人の存在しない世界なんて意味はありませんから。

待ちます。

遠野くん・・・

お願いです。

早く・・・帰ってきて下さい。

みんな寂しがっているんですよ?

遠野くんはズルイです。

これだけみんなを心配させて・・・

貴方が無事であれば良いんです。

生きていれば良いんです。

でも・・・側にいて欲しいんです・・・・・・

遠野くん

帰ってきて下さい・・・・・・

 

 

 

秋葉

 

 

 

兄さんが私達の前から姿を消して一月経ちました。

今私は兄さんと縁の深い方々と生活を共にいています。

アルクェイドさんとシエル先輩を屋敷に迎え入れました。

他の方達も誘ったのですが、それぞれのご事情でこちらに来る事が出来ないそうです。

私の変わり様に貴方はきっと驚くでしょうね。

そして喜んでくれるでしょうね。

兄さん。

私を置いてどこかに行くなんて酷いじゃないですか。

八年前も

今も

私は待ってばかりです。

でも

あの時と同様に

兄さんが帰ってきてくれる事を信じています。

その時は

穴埋めをして貰いますからね?兄さん。

覚悟して下さい。

ずっと待ってます。

兄さんを・・・貴方を信じて・・・

そしてやり直しましょう。

昔のような家族として・・・・・・

ですから兄さん・・・

帰ってきてください・・・再び失うのは耐えられません・・・・・・

 

 

 

翡翠

 

 

 

志貴様が行方不明になって一ヶ月経過しました。

姉さんは相変わらず笑顔ですがどこか作り物のような感じがします。

志貴様が八年ぶりにこのお屋敷に戻られてから姉さんは変わりました。

感情を表に出す事が増えたのです。

志貴様が姉さんを助けて下さったのです。

わたしも志貴様に救われました。

身も心も

『家族』と言って下さった時、わたしは眩暈を感じました。

しかし、

同時にガッカリしました。

志貴様は何時までも志貴様なのですね。

それでしたらわたしは何時までも志貴様のお側に仕えるメイドとして生きるつもりです。

しかし

それは志貴様が居なければ意味がありません。

志貴様が居なければ・・・

押し殺していた感情が爆発しそうです。

志貴様

早くわたしを安心させてください。

不安で押し潰されないうちにわたしの・・・わたし達の元に帰ってきてください。

 

 

 

琥珀

 

 

 

昔のように人形として生きていればこの様な感情は無かったのかも知れません。

翡翠ちゃんにまで気付かれるのですからきっとみなさんお気づきなんでしょうね。

全て志貴さんがいけないんですよ?

わたしを人形から人へと戻してしまったのですから。

人形でしたらこの様な感情はありませんし。

志貴さん・・・わたしは今、凄く心細いです。

みなさんが必死で耐えているのにわたしだけ明るく振る舞うのには耐えられなくなりそうです。

志貴さん・・・早く帰ってこないとわたし、何をするか分かりませんよ?

わたしも志貴さんのように姿を眩ますかも知れません。

志貴さんを捜すために・・・

そうしたらお屋敷のみなさんはどうなるんでしょうか・・・

でも、

翡翠ちゃんを泣かせるわけにはいきませんからもう少し我慢します。

もう少しですよ?

志貴さん。

早く帰ってこないと本当に追いかけますよ?

一人で泣くのには疲れちゃいましたから

志貴さんの腕の中で泣きたいと願うわたしは贅沢者でしょうか・・・

 

 

 

「志貴・・・」

「遠野くん・・・」

「兄さん・・・」

「志貴様・・・」

「志貴さん・・・」

それぞれの想いを秘めたまま

朝が来る

そして―――一新たな譚、真譚が始まる。