黄理の視線の先、闇の中から姿を見せたのは三頭の黒い獣だった。

「狼か」

「情報収集などの先兵として使っているのでしょうな」

老人は獣達に向かって歩を進める。

「この程度、お二方が手を下す必要もありません」

そう言いながら老人は一瞬の抜き撃ちで獣達を撃ち殺した。

 

 

 

 

 

 

月光ノ元ニ流ルル風

 

 

 

 

 

 

撃ち殺された獣達の形が崩れ、土の中へと消えていく。

「襲ってくるのは時間の問題ですが・・・いかが致しましょうか」

「避けたい戦いだったんじゃなかったのか?」

呆れたように老人を見る志貴に老人は銃を仕舞いながら微笑む。

「あの獣に見つかった時点で戦闘回避は不可能なのですよ・・・我々を食らおうとしていたわけですから」

「・・・・・」

黄理は軽く周囲を見回すと、何も言わず老人に向けて何かを求めるように手を伸ばした。

と、老人は仕舞ったばかりの銃を黄理に差し出す。

二人の淀みないその動きを志貴は険しい目で見る。

銃口を向けた先はベンチ。

そして銃口より続けて二発の弾丸が吐き出された。

銃口から弾丸が吐き出されると同時にベンチの影が大きく動いた。

「!?」

影は弾丸の下をかいくぐり、まっすぐ黄理の方へと向かってきた。

にもかかわらず、黄理はのんびりと銃を老人に返していた。

志貴はその影と戦おうと動きかけ、

「問題ありません。すぐに終わります」

老人の制止により動きを止める。

「何故と――――」

志貴の言葉が途切れた。

視界に捉えていたはずの影と黄理の姿を見失ったのだ。

しかし見失ったのも一瞬、志貴はすぐに黄理の姿を捉えた。

「―――一瞬であの距離まで踏み込んで影を殺した・・・?」

「身体強化と歩法です」

「何?・・・身体強化?」

「魔術による強化のことです」

「!?」

老人の台詞に志貴は驚愕する。

「馬鹿な・・・七夜に魔術の素養は」

「七夜の里の者達は混血達と戦うためには暗殺技術だけでは太刀打ちできないことは分かっていた。これはご存じですね?」

「ああ」

「七夜の里の者達は退魔の者達と交わる事でその能力を少しでも取り込もうとした。しかし暗殺者達を快く受け入れる退魔師は滅多にいませんそこで」

「魔術師、か・・・」

簡単な話だ。と言葉を続け、志貴は息を吐いた。

「そうです。しかし魔術師も秘匿を第一とする者達・・・それに必要とする素養も受け継がれるとは限らないのです」

「・・・そうなのか?」

意外そうな顔の志貴に老人は微苦笑しながら頷く。

「幸いな事に黄理様はごく僅かでしたがその素養がありました。しかしそれも身体強化が限界です。しかもそれを知ったのは数年前ですが」

黄理は周辺にまだ敵が居ないか確認していたが、知覚できる範囲に居なかったのか志貴達の元へとゆっくりと戻る。

「と、いう事は・・・俺にもその素養があると?」

「可能性はあります。ですが・・・・」

老人は志貴の目をじっと見つめる。

「例え素養があったとしても、黄理様と違いその眼との併用は十中八九できないでしょう」

志貴の表情が険しくなった。