「さて―――」

食堂を出て息を吐くと、志貴の表情が変わる。

境界線上で彷徨いている自分。

同じように境界線上にいるであろう秋葉。

どことなく似ているようでまったく違う。

「報われないよな・・・俺も、秋葉も」

志貴を求める秋葉。しかし志貴は秋葉を妹以上の存在としてみる事はなく、もし反転した場合は秋葉を狩る事もやむを得ないと考えていた。

恐ろしい温度差に秋葉は気付いていない。

 

 

 

 

 

 

月光ノ元ニ流ルル風

 

 

 

 

 

 

人気のない公園で黄理は一人ベンチに座っていた。

周囲に人の気配はないが、黄理は瞑目したまま30分以上はそこにいた。

「来たか」

ベンチに座っていた黄理はベンチを立つと小さく頷く。

「今日は仕事じゃないのか」

少し離れた木の陰から志貴が姿を見せた。

「今日は新たな情報を得たので早いうちにご報告しようと思いまして」

老人が志貴の隣に姿を現し、ファイルを差し出した。

「・・・どこから湧いて出た?」

「何処にでもいて、何処にもいない存在ですから」

「ボウフラか?」

「最近口が悪く・・・・」

志貴は老人の台詞を待たずにファイルを取ると中を読み始めた。

「――――こいつらを狩れとか無茶な依頼を?」

ファイルを読み終わった志貴は険しい表情で黄理を見る。

「どちらも勝てるような相手ではない。気をつけるようにという資料だ」

その台詞に志貴は思案顔になる。

「どうした?」

「本当に、倒せないのか?」

「要請もないのに戦ってどうする?教会の代行者が戦うべき相手であってこちらの戦う相手ではない」

「・・・・そうじゃなくて」

「戦って得られる物は何だ?降りかかる火の粉は払わねばならないが、わざわざ自ら求める必要もないだろう」

「・・・・・・・」

黄理の台詞に志貴は視線を下に落とす。

と、

「志貴さまは貴方様でも倒せないのかと聞きたかったのですよ」

老人が苦笑しながらそう言った。

「何?」

よく分からないといった顔をする黄理に老人はため息を吐く。

「・・・間に通訳が入らなければならないというのは問題ですよ?」

呆れたように言う老人に黄理と志貴は顔を見合わせ、同時にため息をついた。

 

 

「これがマンションの鍵です。一応、フロア全体の鍵をお渡ししておきますのでお好きな部屋をお使いください」

「・・・当分は使いそうにないが・・・ありがたく受け取っておこう」

鍵を受け取った志貴は僅かに顔をしかめる。

「しかし、これを持って歩くのはな・・・・」

受け取ったのは5〜6つの鍵が連なった束。

「ああ、でしたらこのマスターキーセットを」

「・・・・・これで充分だ」

「ああ、それと・・・」

「まだ何かあるのか?」

「先ほどのファイルの二人ですが」

「?」

「この周辺地域に来ているものと思われます」

「!?」

驚きを隠せない志貴とは対照的に黄理はため息と吐く。

「・・・・・最悪、鉢合わせになる可能性がある、か」

「周囲の地脈が妙な動きをしているので恐らく・・・」

「両方ともこの周辺地域にいると?」

志貴の問いに答えようとした老人は言葉を僅かな間止め、

「―――残念なお知らせをしても宜しいでしょうか」

「残念なお知らせ?」

「来たようだな・・・・敵が」

黄理は呟くと同時にどこからともなく武器を取りだした。