「実の兄、遠野四季は亡者扱いか?」

「・・・・ええ。アレはもう死にましたから」

僅かな言い淀みを志貴はあえて無視すると秋葉に背を向けた。

「兄さん?」

「俺がここにいる意味はない。有間に対する義理はここに来る事で果たした」

「兄さんの帰るべき場所はここです!」

「―――分からないな。どうして俺に拘る?」

再び振り返り首を傾げる志貴に秋葉は感情的になる。

「それは兄妹として!!」

「実の兄の死についてはそこまで感情的な声色じゃなかったが・・・?」

その時の秋葉の表情は、志貴が昔見た泣きそうな顔の秋葉そのままだった。

 

 

 

 

 

 

月光ノ元ニ流ルル風

 

 

 

 

 

 

「兄さんは―――どうして」

「秋葉の真意が聞きたい。どうして俺をここに呼んだのか・・・兄妹だから呼び戻したというのは違う気がしてな」

「兄さん。あの・・・」

「こんな問いつめ方をしたが、言いたくないのなら構わないし、俺を追い出す気になったら今からでも俺を追い出して欲しい」

「追い出すなんてそんな!」

「遠野の家に七夜の人間、しかも記憶の戻った七夜がいる事自体異常だろ。そのことを知られたらどうなるか・・・」

「この屋敷には私達4人しかいません」

その台詞に志貴は顔をしかめた。

「本気か?」

「兄さんを呼び戻すために私は逗留していた方々と使用人をすべて退去させました。今残っているのは翡翠と琥珀のみで―――」

秋葉の台詞を遮るように志貴の携帯電話が鳴った。

「と、失礼」

志貴は携帯電話を取り出すと通話ボタンを押す。

『マンションの手配完了いたしました。そちらの方はいかがですか?』

あの老人からだ。

「こちらは何とも言えない。後ほどかけ直す」

志貴はそれだけ言うと通話を終え、携帯電話を仕舞った。

「―――俺の帰る家は確保できたようだ」

「兄さんはまた私を置いて行ってしまわれるのですか!?」

叫ぶように言う秋葉に志貴は小さく息を吐く。

「―――俺は何かと忙しい。有間にいたのは俺の個人行動に対して厳しく追及してこなかったからだ」

「でしたら・・・・でしたら私も兄さんに対して門限等は一切・・・・」

「ここ自体が俺にとって危険だという認識が甘いようだな。俺は七夜。退魔の人間で人ならざる者に対して衝動的に攻撃しかねない。この意味が分かるな?」

ビクリと震える秋葉。

「ですが、兄さんは私に対して攻撃を」

「今のところはな・・・だが、お前がいつそうなるか分からないし、突然親戚連中が来るか分からない」

「突然の訪問に関してはわたし達がきちんとサポートいたします」

割烹着の女性が一歩進み出た。

「琥珀・・・」

驚いた顔をした秋葉だったが、すぐに気を引き締めると志貴を見る。

「私が反転した時は兄さんの手で―――殺して欲しいのです」

「そのために俺を遠野に呼び戻したと?」

「呼び戻したのは本当に兄妹としてまた再び暮らしたかったからですが、今言った事も・・・考えてはいました」

「上等。その台詞だけで充分だ。隠し事をせずにちゃんと言えるじゃないか」

志貴の微笑に秋葉はほっと安堵の息を吐いた。