弓塚から聞いた話は志貴にとって有益なものであった。
「ありがとう。最近テレビも見てなかったし、新聞も読んでなかったから知らなかったよ」
「遠野くん。また忙しいの?」
「アルバイトが少し続いちゃってね・・・」
「どんなアルバイトか分からないけど、夜は気をつけてね」
心配そうな弓塚に志貴は苦笑する。
「心配してくれてありがとう。弓塚さん」
弓塚はこれ以上ないくらいに照れていた。
月光ノ元ニ流ルル風
「おそぉぉい!」
食堂に着いた志貴に有彦が叫ぶ。
「・・・俺は時間すら指定されていたのか?」
呆れたように言う志貴に有彦は当たり前だと頷く。
「遠野くん。朝は忠告ありがとうございました」
有彦の横にはシエルが座っていた。
「・・・先輩が、何故ここに?」
「今日の特別ゲストだ!」
「あっそ。じゃあ邪魔したら悪いよな」
「なぬ!?」
それだけ言うと志貴は食券を買いに席を離れた。
志貴の後ろで有彦とシエルがそのまま食堂を出るのではないかと心配していたが、志貴が食券を買ったのを見て一息吐いた。
が、
「おばちゃん。これ、詰めてください」
「はいよ」
「「なっ!?」」
これには有彦やシエルだけでなく、周囲の生徒達も驚いた。
まさかそんな事ができるとは思ってもみなかったためだ。
食券に20円足して学食弁当を手に入れた志貴は何事もなかったかのように食堂を後にした。
「―――お前さぁ、ちょっと酷くね?」
午後の授業が始まる直前に戻ってきた有彦が志貴の机の前に立った。
「君の心を察しただけだが?」
「それは嬉しいが、偉く気まずかったわ!」
「そこはお前の得意とする小寒いトークで」
「寒い言うな!ったく・・・先輩はお前が学食に来ると言ったから来てくれたんだぞ?」
「説明しないお前が悪い。以上」
キッパリという志貴に有彦は言葉に詰まる。
「しかし、何でお前にこだわるかねぇ・・・先輩は」
「さあな。はっきり言うと今日朝会ったのが初めてだ」
「は!?まさかぁ〜」
「語尾を伸ばすな。ちゃんと会って話をしたと言い換えても良いかも知れない」
「あ〜・・・そうかも知れないな」
納得する有彦に志貴はため息を吐く。
面倒な奴に絡まれた。
志貴は午後の授業そっちのけでその対策を練っていた。
HRが終わり、担任が教室から出ていって1分と経たずに志貴の携帯電話が鳴った。
『今、お時間の方は宜しいですかな?』
電話の相手はあの老人だった。
「別に構いませんが」
『そちらにいる人物。シエルという名を使っているのでしたら第七司教に間違いありません。もしや直接本人が?』
「そうです」
『そうですか。それと、今夜もお時間の方は』
「分かりました。いつもの時間に」
『では、お待ちしております・・・』
通話が切れ、志貴は携帯電話をしまう。
「遠野。今のは?」
有彦が興味深そうに訪ねてきたが、志貴は元から答える気はない。
「答える必要はないだろ?」
「彼女か!」
「野郎。それも年寄りが彼女なのか俺は」
冷たい視線を送る志貴に有彦はすぐに謝った。
「遠野くん。今日も?」
「うん」
「そっか・・・気をつけてね」
「心配してくれてありがとう」
「弓塚。お前、今の電話の主分かるのか?」
「えっ?それは知らないよ」
「秘密を共有する仲!?そんな関係になっていたのか!」
「有彦。弓塚さんに失礼だぞ」
「・・・・・お前、フラグクラッシャーじゃなくてフラグボマーって称号を与えるよ」
よく分からない志貴だったが、何となくむかついたので有彦を軽く小突いた。