「おう、遠野遅かったな」
教室に入ると志貴に声が掛けられた。
「ちょっとあってね・・・お前の方も早いじゃないか。有彦」
「当たり前よ!訳を聞きたいか?聞きたいよなぁ?」
有彦と呼ばれた男生徒が志貴の台詞を待っていたかのようにニヤリと笑う。
いかにも不良ですといった風体の男生徒だが、周りは彼を避けるような素振りを見せてもいなければ無関心というわけでもない。
乾有彦。彼はただ少し不真面目で我が道を行くアウトローな男生徒であり、そして―――
「乾。席に着かんと遅刻又は欠席扱いにするぞ」
「うぉうっ!?なんてトラップ!?」
「それと町内会からお前宛に感謝状が来ていたぞ。毎朝早くラジオ体操のセッティングしているそうだな」
「夜更かししなくなったら朝5時には起きてしまって大変なんッスよ・・・爺婆に混じってラジオ体操ってイイッスよ。ティーチャーもトゥギャザしない?」
「俺は全力で断る!貴様が全力で相手してやれ!」
「えー?毒蝮のオッサンかっつーの・・・」
―――へぼいお笑い担当である。
月光ノ元ニ流ルル風
午前の授業も滞ることなく終わり、生徒達は食堂や購買、家から持ってきた弁当を机の上に広げるなどし始める。
「なあ遠野」
昼食はどうしようかとのんびり考えていた志貴に有彦が絡んできた。
「金は貸さないぞ。つーか返せ」
「ご免なさい。今俺の財布の中は439円です、借りたいけどそうじゃなくてだな・・・」
「昼を奢れと?」
「近い!」
なかなか話が前に進まない事に志貴はため息を吐くと話を切り上げようと席を立った。
「・・・・・・付き合っている暇はないな。じゃ、俺は食堂に行くから」
「なぬ!?ならば吾輩も行こうではないか!」
「・・・・・・・やっぱり購買でパンか弁当を買うよ」
「ストップストップストォォォップ!」
「何だよ」
「頼むから一緒に食堂で食わないか?」
「何故?」
「いやぁ・・・ちょっとありましてねぇ」
歯切れの悪い有彦に志貴は僅かに顔をしかめるが、食堂に行くのなら考えている時間はなかった。
「分かった。ロクでもない事だとは思うけど、食堂で食べる事にするよ」
志貴はため息混じりにそう告げると、
「んじゃ、俺は速攻で席取りに行って来るであります中尉!」
有彦は勢いよく教室を出ていった。
「―――しかし、やつは朝からあのテンションだな・・・そもそも何であんなに早くから学校にいるんだろう」
「アレ?遠野くん。もしかして吸血鬼事件知らないの?」
と、志貴の独り言に反応した女生徒が志貴の方を向いた。
「吸血鬼事件?・・・ゴメン、分からない。弓塚さん、良かったら教えてくれないかな?」
「えっ?あ、うん。その事件って言うのはね・・・・」
弓塚と呼ばれた女生徒は嬉しそうに志貴のそばにくると、事件の事について話し始めた。