「・・・・・・・はぁ」
女生徒は目を逸らし、大きく息を吐いた。
「遠野くんはわたしのボランティア活動をご存じのようですね」
「へぇ、ボランティアなのか・・・」
感心したように言う志貴に女生徒は小さく首を傾げる。
「あの・・・」
「はい?」
「遠野くん・・・ですよね?」
「まぁ、遠野と言えば遠野ですけど、先輩は・・・ああ、先輩で良いんですよね」
「ええ。まぁ・・・」
「先輩の名前をお聞かせ願いませんか?」
マイペースな志貴に振り回されている女生徒は
「シエルです――――!?」
普通に答え、数瞬後絶句した。
月光ノ元ニ流ルル風
「どうかしましたか?」
「い、いえ・・・」
「そろそろ授業が始まりますよ」
「ええ、そうですね・・・・」
「では、俺はこれで」
「あ、はい」
志貴は軽く会釈をし、校舎へと歩き出す。
シエルは何とか立ち直り、校舎へと向かう志貴の後ろ姿を見送る。
「敵意や悪意はありませんでしたが・・・アレは天然なんでしょうか」
シエルは遠野家と遠野志貴について改めて調査し直す必要を感じていた。
遠野家は敵となる可能性があるのか。
教会の事をどこまで知っているのか。
どこまで情報を掴んでいるのか。
調べる事は山積状態だった。が、
「と、その前にこれを直してからですかね・・・」
壊れている花壇の柵や添え木を見回し、とりあえず目の前の作業片付けるために腕まくりをして道具を持ち直した。
校舎に入った志貴は周囲に人がいないのを確認すると携帯電話を取り出す。
そしてあの老人に再度電話をかけ直すとシエルについて簡単に調べて欲しいと告げ、電話を切る。
「―――最近、境界が緩んできているな・・・修行が足りないのか、それとも」
ハァッとため息を吐き、志貴は教室へと早足で向かう。
HR開始のベルが鳴るまで後僅か。
「おお、遠野。ちょうど良いところにいた」
職員室のそばを通った時、職員室から担任が姿を見せた。
「おはようございます。何かありましたか?」
「住所移転の手続きがあるんだが、休み時間にここに来てくれないか?」
「その件ですが、少しゴタゴタしているのでもう少し待っていただけませんか?」
「ゴタゴタ?」
「はい。ちょっとありまして・・・数日中には片付くと思いますのでその時まで保留と言う事で」
「まあ、数日なら構わないが・・・お前も大変だな」
「厄介事は勘弁して欲しいんですけどね・・・」
わざとらしくため息を吐く志貴に担任は苦笑する。
「まだ余裕がありそうだな」
「結構一杯一杯ですよ」
二人とも苦笑しながら教室へと向かう。
「そう言えば、中庭の方で花壇の修理をしている先輩に会いましたが、授業の方は大丈夫でしょうか」
「ああ、シエルくんか。彼女の事だ。授業も真面目だし、大丈夫だろう」
「・・・・・・・・そうですか」
担任の反応に志貴は僅かに目を細めるが、それ以上は何も言わず教室への歩を僅かに早めた。