―――これまで口座を確認していなかったが・・・今後の事もある。早いうちに確認するかな。
志貴は今後の事を考えながら登校していた。
今まで志貴はアルバイトの金額を聞いた事もなければ口座の中を見た事もない。
しかし、黄理が言うには「普通の高校生のアルバイト代ぐらいだろう」と言っていたので志貴はそれを信じていた。
マネージメントはあの老人がしていた事を失念していた志貴は後に確認しなかった事を心底後悔する事となった。
月光ノ元ニ流ルル風
学校の裏門前で立ち止まった志貴は目を細める。
「ここを通るのももう最後か・・・」
下手をするとこの学校に通うのも今日が最後という可能性がある。
人気のない寂しい裏門。
この裏門の寂しげな空気が好きだった志貴は別れを告げるように門扉を撫で、門をくぐった。
と、
「・・・・・・何だ?」
校内の空気がいつもと僅かに違っていた。
そして
カーン、カカーン、カッコン
妙な音が中庭の方から聞こえてきた。
「・・・・・」
志貴の中で嫌な予感がした。
軽く深呼吸をし、少し前に持たされた携帯電話を取り出す。
今まで嫌な予感を外した事がない志貴は本能の命ずるままに短縮1番を押す。
『―――七夜でございます』
三コールを待たずに老人が電話を撮った。
「うちの学校に妙なのが紛れているようだが?」
開口一番に志貴がそう言い放つ。
『昨夜報告に伺った際に聞いた話では、今三咲の方に教会の人間がいると・・・その方ではないのですか?』
「教会が動いている?こんな所にわざわざ教会の人間を派遣するとは――――待て。ならあの死者どもは」
『他の情報と総合した結果、死徒が三咲にいるのは絶対です。ああ、報酬は口座に振り込んでおりますのでご確認を』
「ああ。今日明日にでも・・・他の情報?」
『その情報は又後ほど・・・』
老人から通話を切られ、志貴は渋い顔で携帯電話を仕舞った。
「さて、と・・・調べてみるか」
志貴は大きなため息を吐くと音のする方へと向かった。
中庭に着くと、そこでは一人の女生徒が楽しそうに花壇の修理をしていた。
―――これは、気付かれてはいるな。
志貴に対して背を向けて作業はしているものの、ここで志貴が何かアクションを起こせばその女生徒はすぐに対応できる。
志貴は女生徒がただ者ではない事を看破し、近寄らない事を決めた。
そしてそのまま中庭を横切ろうとした時、
「遠野くん。手伝ってくれないんですか?」
その女生徒に声を掛けられた。
「・・・知らない方がとても楽しそうに作業をしているので邪魔しては悪いかなと思いましたが、手伝いは要りますか?」
楽しそうにしていたのは事実。
女生徒が姓を知っていた事に志貴は軽い驚きと警戒を持った。
「酷いです遠野くん。わ「この修理は教会で習ったんですか?」っ!?」
女生徒の台詞を遮るように志貴は手札を一枚出した。