暗い地下道の中、その音は断続的に鳴り響く。
それは数分前から何度も続いている。
怒声や何かが爆ぜる音、そして悲鳴が壁に反響し、混ざり合う。
ィ──ンッ
甲高い金属同士がぶつかる音がし、派手な水音が辺りに響く。
そしてその派手な水音を以て音が一度途絶えた。
月光ノ元ニ流ルル風
暗い地下道に明かりが点る。
そこに立っていたのは三人。
「・・・こいつも死人だったか」
一番若い青年が呟き、
「そして隣はその死人を匿う魔術師・・・自滅してしまいましたが」
隣にいた特徴的な老人が小さくため息を吐く。
「愚かな・・・」
そして青年によく似た男性がボソリと呟いた。
「魔術協会からの依頼はこれにて完遂でございます。報酬はいつもの通りで宜しいですか?」
「ああ」
男性は小さく頷くと踵を返し、歩き出した。
青年はその後を追い、老人は二人に向けて軽く一礼をする。
「───七夜一族はあのお二方が居る限り安泰ですな」
僅かに口元を緩めてそう呟くと老人は姿を消した。
「志貴、どうかしたのか?」
地下道を出て街に着くと男が立ち止まり、志貴を見る。
志貴と呼ばれた青年は突然の科白に僅かに躊躇いを見せたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「・・・遠野が、俺を呼び戻そうとしている」
「ほう」
男は表情一つ変えない。
わずか後、男は歩くようにと視線で促す。
そして二人は同時に歩み出した。
「・・・」
志貴は男の反応に苦い顔をする。
「志貴、お前はどうしたい?」
「遠野槙久はもう居ない・・・奴を始末する機会を永遠に失った以上・・・」
「お前が遠野家を恨む理由が分からないな」
男が静かにそう答える。
「遠野・・・特に遠野槙久を恨む理由はないはずだが」
もう一度言う男に志貴は小さく首を横に振る。
「恨んでいるわけではない。ただ・・・」
「七夜の里が襲撃を受けたのは自業自得だ。それは里の人間も全て分かっていた事だ」
静かな口調の男に志貴は小さく息を吐く。
「───それは分かっている」
「納得できない・・・分かっていても許せないか?」
「違う。誰かが仕留め損ねた相手を俺が責任もって始末しようとしていただけだ」
「あの時点での目標は既に仕留めていた。永久に無理な話になったが、もしお前が遠野槙久を殺すとしたら、お前はただの殺人狂だ」
殺人狂。
その科白に志貴は顔を歪めたが、それも一瞬で元の無表情に戻す。
「────そうだな」
「今夜はもう遅い。早く戻ってやれ。また、連絡する」
「ああ・・・親父も達者でな」
志貴はゆっくりと息を吐き、自然な動作で行く方向を変えた。
そして二人は別々の方向へと歩き去っていった。