死んだようにピクリとも動かなかった少年が小さく身動ぐ。

その反応に二人とも大きく反応し、その少年の元に駆け寄る。

そして駆け寄った瞬間、

ビクンッ

少年は痙攣が起きたようにビクンとひきつけを起こした。

その様子に二人は顔面蒼白でその少年を抱き起こそうとしたその瞬間、

「「!!??」」

一瞬、少年から発せられた力に二人は慌てて身を退いた。

 

 

 

 

 

夜月

 

 

 

 

 

───誰とも仲良くしたくないけど、君が死んじゃうと僕達も死んじゃうから力は貸してあげる。

志貴は意識が浮上して目が覚める前にそんな声が聞こえた気がした。

「・・・ありがとう・・・」

志貴はゆっくりと目を開けながらそう呟く。

「し・・・き?」

心配そうにおそるおそる声を掛ける青子と、

「・・・・・」

無言で志貴を見詰める橙子。

「ぁ・・・おはよぅございます・・・・」

それに気付いた志貴はちょっと困ったような顔でチョコンと頭を下げた。

「志貴〜〜〜〜〜〜っ!!」

その仕草をしたと同時に青子が志貴に抱き付いた。

ぁ、あぅぅ・・・・・

顔を真っ赤にして呻く志貴。

それでも構わず青子はギュッと志貴を抱きしめた。

「カッ、はっ、ぁ───」

強く抱きしめられているせいで志貴は呼吸が満足に出来ずに、小さく咳込みはじめ、ようやく青子は志貴を解放した。

「大丈夫?志貴。どこも痛くない?」

「・・・苦しかったです・・・」

涙目で青子を見る志貴に青子は『心配させたからよ』と志貴の額を指先で弾いた。

そして───

「志貴」

橙子が青子を退かし、志貴の前に立つ。

そして屈み込んで志貴の目線の高さに合わせると、

「済まなかったな・・・」

そう言って橙子は頭を下げた。

 

 

「・・・・・・」

志貴はじっと橙子を見る。

橙子は頭を下げたまま言葉を続ける。

「許してくれとは言わない。私を軽蔑し、嫌っても構わない」

「怖かったし、痛かったんだよ?」

志貴の台詞に橙子はポツリと呟いた。

「・・・・殴っても構わない。何をしても甘んじて受け入れよう」

橙子は顔を上げない。

「でも、僕のため、だったんだよね?」

「?!」

驚いて橙子は顔を上げた。

「お姉ちゃん・・・意地悪言ってゴメンね」

志貴は橙子をギュッと抱きしめた。

「志貴・・・?」

橙子は顔を上げて志貴を見る。

「僕、全部分かった・・・でも、やっぱり、誰も恨めないよ・・・」

志貴の台詞に橙子は目を瞑り、志貴を抱きしめた。

「───志貴。もし良ければ・・・教えてくれないか?」

志貴を抱きしめたまま橙子が囁いた。

「ん・・・あのね、僕がいっぱいいて・・・みんなが僕の忘れていた事を教えてくれたの」

「沢山の自分って・・・」

「で?」

青子の呟きを無視し、橙子は先を促す。

「・・・僕は本当は遠野じゃなくて七夜っていうんだって・・・それで、僕の一族?がみんな殺されて、お父さんは『今までのツケが回ってきた』って」

「・・・分かった・・・もう、いい」

淡々と思い出しながら語る志貴に橙子は更に強く抱きしめた。

 

 

「───厄介だな・・・奴はあらゆる所に人脈を持っている。迂闊に正面からは乗り込めないか」

男は報告を聞き、険しかった表情を益々険しくさせた。

「・・・紅摩を呼んでおけ。場合によっては始末しろ・・・外部にあのことが漏れてしまうと厄介だからな」

男は苛立ちを手元にあったメモ帳に手にしていたペンを叩き付ける。

分厚いメモ帳にペンが突き刺さり、抜けなくなったそれを男は机から払い落とした。

「───いや、待て。もう手遅れかも知れんな・・・奴は始末しろ」

それだけ言うと男は受話器を置く。

「・・・・何が目的だ・・・・どこにアレとの接点があったと言うんだ・・・」

椅子に背を預けると男は深いため息を吐く。

「分からん・・・が、やらねばならないか・・・」

椅子にもたれたまま再度深い溜め息を吐くと天井を睨んだ。

 

 

「志貴、さっき目を覚ます前に強い力を感じたけど・・・」

橙子から解放され、小さく息を吐いた志貴に青子が訊く。

「?」

小首をかしげる志貴に青子は食指が動きかけたが、理性がそれを止める。

「・・・うん。君が目を覚ます少し前に強力な力が発せられたのよ」

「?・・・ぁ」

「何か知ってるの?」

「・・・・ぅん。他の僕が力を貸してくれるって」

志貴の言葉に青子が首をかしげる。

「他の?」

「うん・・・・仲良くはしてくれないけど、僕に力を貸してくれるって」

「「え?!」」

驚くタイミング、そして音量まで計ったように同じだった。

「?」

「―――姉さん。どういう事なの?」

状況を把握できていないのかそれともわざとか青子は橙子に訊いた。

「いや、まぁ幾つか考えられるが・・・恐らく今体術で挑めば瞬殺間違いなしだろうな」

「それはつまり?」

「つまり、今の志貴は七夜としての潜在能力を自由に引き出せる状態だということだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと、それってどういう事?」

どうやらただ単に信じたくないだけだったようだ。

「莫迦か?―――まぁいい。志貴。今後の行動はどうする?知ったからには君にすべて任せようと思うが・・・」

橙子はちょこんと座っている志貴に問う。

と、

「僕、お父さんから直接聞きたい」

志貴はハッキリとそう言った。