「あれぇ?・・・ここは・・・・・・」
「志貴、久しいな。待っておったぞ」
「あ!月お姉ちゃんだ」
満面の笑みで抱きつく志貴。
そしてそれを微笑しながら受け止める朱い月。
「・・・その呼び方をどうにかしてくれぬか?」
「え〜?だって朱い月のブリュンスタッドっていうんでしょ?」
「うむ」
「長い名前だと言いにくいから短くしたの」
「・・・・・・まぁ、良い」
「えへへ〜月お姉ちゃんと偶にしか会えないから嬉しい」
「そうか」
朱い月は僅かに口元を綻ばせる。
「月お姉ちゃんは嬉しくない?僕、邪魔?」
不安そうな顔で覗き込む志貴に朱い月は僅かにムスッとした表情をする。
「先程も言ったであろう?待っておったと」
「そっかぁ・・・・僕、自分でここまで来れないから月お姉ちゃんが呼んでくれるのを待っているしかないもん」
少し拗ねたようにいう志貴に朱い月はホウッと息を吐く。
「志貴・・・志貴はアレの血を飲んだのか」
「?」
チョコンと首を傾げる志貴に朱い月はもう一度問う。
「志貴はアレの血を飲んだのかと聞いたのだ」
「うん。だってお鼻が詰まっていたら苦しいんだよ?」
「・・・・・・・良く分からぬ答えだが」
「あ、そっか。お鼻が詰まっていてもお鼻から血は出ないんだ」
「・・・・・・何故鼻から血が出たのかという疑問にはいかぬ辺りお前らしい」
クスリと笑う朱い月。
「月お姉ちゃん」
「どうした?」
「月お姉ちゃんは笑った方が良いな」
志貴の台詞に良く分からないといった表情の朱い月だったが、
「月お姉ちゃんが笑ったらね、僕、温かい感じがしたんだ」
「・・・・・・」
驚いたような顔の朱い月に志貴が抱き付く。
「アルクお姉ちゃんも好きだけど、月お姉ちゃんも好きだよ」
「・・・・そうか。そうであろうな」
どちらが良いか────とは問わない。
志貴にとってはどちらも別で、どちらも同じくらい『好き』だと分かっている。
だが、独り占めしたいという気持ちがないわけではない。
と、
「あ、僕アルクお姉ちゃんの血を飲んじゃったんだよね・・・・」
急に志貴がシュンとした顔をする。
「どうした?」
「僕もう年をとらないの・・・?」
「む・・・うむ。志貴はアレの血を結構量口にしたのだ・・・恐らくはそうなっているだろう」
「ぇぅ・・・・・僕、大人になれない・・・・」
泣きそうな顔で項垂れる志貴。
───耳と尻尾が、垂れておる・・・・
朱い月の目にはアルクェイドと同じようにあるはずのない耳と尻尾が見えていた。
何とかしなくてはならないと朱い月は志貴に問う。
「志貴は何故大人になりたいのだ?」
「だって、大人にならないと色々出来ないでしょ?免許とかも取れないし・・・」
「それならそのまま時が経過すれば姿はどうであれ年齢は求めるものに届くのではないか?」
「・・・・・・あ、そっか!」
パァッと笑顔になった志貴。
「月お姉ちゃんありがとう!」
「いや、私はただ事実を言っただけで・・・」
「でも月お姉ちゃんに言われなかったら気付かなかったし、僕、お姉ちゃんにありがとうって言いたいんだ」
甘えるように頬を擦りつける志貴に朱い月はフッと微笑む。
「そうだな。志貴の好意は受け取らねばな」
そう言って志貴を抱きしめる。
暫くそうしていたが、朱月はふと思い出したように呟く。
「志貴はアレとよく夜具を共にしていたな?」
「うん。お姉ちゃんったら勝手なんだよ。僕と寝たら幸せ気分になるって僕眠くないのに一緒に寝かされて逃げられないように抱きしめられるんだよ。僕お人形さんじゃないのに」
プウッと頬をふくらまして怒る志貴に、
「そうか・・・・ならば私にもして貰わねばな」
「・・・・・・え?」
一瞬驚いた顔をした志貴だったが、表情を曇らせ朱い月からのろのろと離れる。
「・・・・やだ」
「何故だ?!」
断られたせいか朱い月は僅かに声を荒げる。
「だって・・・・・眠ったらお別れだよね。もう少し月お姉ちゃんと遊びたいよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
朱い月が固まった。
拗ねた顔。
上目遣いで見詰めるその様。
そしてその台詞。
「・・・・・・・・・何故だ」
「?」
「何故志貴は私をここまでアツくさせるのだ?!」
「!??!」
ガバッと志貴に抱きつき、頬ずりをする。
「世界云々は関係ない。私は、この身は志貴だけが欲しい」
「?いいよ」
アッサリと志貴は頷いた。