事の発端は真祖の一言から始まった。
「忘年会がしたい」
それに対して志貴がじゃあお誕生日会をやろうと言いだした。
そして今。
「ね〜シオンちゃ〜ん」
志貴が私にもたれ掛かっている。
───ご免なさい、志貴。
私には謝る事しかできない。
止める事が出来なかった私を許してください。
「ふにゅ・・・ふにゅにゅ・・・・」
───それ、お酒なんです。
PANIC
「シオンちゃん〜これ甘いけどポカポカするよ〜?」
そう言いながら志貴はカルアミルクをチビチビと飲み進める。
───真祖、代行者・・・早く、早く帰ってきてください・・・
志貴が予想以上にお酒を飲み進めたために代行者は酒を買いに行き、真祖は何を思ったのかそれについて行ってしまった。
「し〜お〜ん〜?」
甘えるように志貴が私の肩に頬を擦る。
───うあ、志貴が可愛すぎます!
───ハグしたい!ハグ!
───いえ、今ならそのままキ、キスしちゃっても!
───いけません!それは志貴に対する信頼を・・・
───キスは愛情表現です!
───む、それは確かに・・・
「僕無視されちゃってるし・・・む〜〜っ」
───その顔、凄くイイですよ・・・志貴。
これ以上思考の渦に落ちると志貴が本当に無視していると勘違いしてしまう。
私は冷静を装って志貴の頭を優しく撫でた。
「───無視してません。少し考え事をしていただけです」
「?僕の事、無視してない?」
「志貴の事を無視するなんてそんな酷い事するはずがありません」
「えへへ〜シオンちゃんやさし〜」
志貴はグラスをテーブルに置いて私に抱き付いた。
そんな大胆な事をされては色々と拙いのです!
───理性が!理性が!!
───衝動が!!!
「かっ、カット・・・カットカット!」
今志貴を襲っては・・・志貴も抵抗できない!
「志貴・・・逃げて・・・ください」
私の必死の科白も酔った志貴には聞こえていないのか、離れる気配を見せない。逆に
「シオンちゃんって優しくて柔らかくてスベスベ〜」
「ひうっ!?」
志貴の頬が・・・柔らかくて・・・
───私の頬と志貴の頬が接触してます!!
───頬がこれだけ柔らかいのならその首はもう・・・
か、カット・・・早く、志貴を突き放してでも遠ざけなければ・・・
「シオンちゃん可愛い〜」
「は、はぅ・・・・」
───志貴・・・これ以上抱き付かれ、た・・・・ら・・・
チュッ
「・・・・え?」
────全思考回路、フリーズ
「シオンちゃんのほっぺも柔らかくて」
チュッ
「ひうっ!?」
き、キスされた・・・・・志貴に・・・
あまりの衝撃に吸血衝動が、治まって、る?
「シオンちゃんの首筋もとても綺麗〜」
「ぁ、志貴・・・志貴・・・・」
「ドキドキしてる・・・僕、女の子の体なのに・・・よかった〜僕まだ心は女の子じゃない〜」
志貴はよく判らない事をいいながら更に抱き付いてきた。
「志貴・・・もっと、キス、してください・・・」
「シオンちゃんやっぱり可愛い〜〜」
そこから先の私の記憶は不覚にも全くない。
「や、やりますね・・・」
買い物袋を両手に持ったシエルは昂然とした表情で気を失っているシオンと、シオンを押し倒して覆い被さるように眠っている志貴を見て固まっていた。
「シオンの気配がおかしかったから急いで戻ってみたら・・・吸血鬼化しても酔っぱらった志貴には勝てないかぁ・・・」
アルクェイドはチャラチャラと鍵を指先で回しながらため息を吐く。
「わたし達でもあの誘惑には」
「勝てるわけないじゃない・・・むしろ代わりたいくらいよ!」
「それです!行きますよ!」
シエルは買い物袋をその場に置き、二人の元へと急ぐ。
そして志貴をシオンから引き剥がす作業に取りかかった。
「───でも、あんな状態なら誰だってドキドキすると思うけどな・・・」
「・・・・・シエルさん?」
「はい!貴女の頼れる先輩ですよ遠野さん」
眠っていた志貴を起こしておいて言う台詞ではないが、シエルは満面の笑みをもって志貴に挑んだ。
結果、
「シエルさんも綺麗〜」
志貴はニヘラと笑うとシエルに抱き付いた。
「はぅぅぅぅぅ・・・この至福の一時に心から感謝します」
しっかりと志貴を抱きしめてシエルはだらしなく表情を緩ませていた。
ムニュッ
「!?」
シエルがビクリと震える。
「あ、あの遠野さん・・・?」
志貴はシエルの胸に顔を埋め、頬擦りする。
酔いと寝ぼけの混ざった行動だった。
「ふにゃにゅ・・・」
「ちょっ!」
慌てるシエル。流石に理性は残っているのかそれとも羞恥心か、志貴を自分から引き剥がそうとする。が、
「やー!シエルさん温かい〜」
志貴はそう言ってシエルにしっかりと抱き付く。
「シエルいいな〜」
指をくわえてその光景を見るアルクェイド。
「う、嬉しいんですけど・・・理性が・・・」
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分のシエルはアルクェイドに助けを求める。
ただし、無意識かシエルは志貴をしっかりと抱きしめていた。
「し〜き〜わたしのお誕生会なんだよ?もっとわたしに構ってよ〜」
拗ねたように志貴に話しかけるアルクェイド。
「シエルさん温かくて柔らかいの〜」
「わたしもそうだよぉ〜」
アルクェイドは少し泣きそうだった。
「ふにゅ・・・」
志貴は小さく頷くとシエルから離れ、アルクェイドに抱き付いた。
「志貴〜〜〜〜」
アルクェイドは志貴を抱きしめたままベッドへと移動する。
「あ!狡いです!」
シエルが声を上げるが、時既に遅く、
アルクェイドは志貴と共にベッドに寝転がった。
空調によって室内は程良い温度に保たれているが、シーツは冷たく、志貴は小さく身動ぎするとアルクェイドを更に強く抱きしめた。
「えへへへ・・・志貴可愛い〜」
「クッ・・・反対側はもらいました!さあ遠野さん!わたしも貴女を優しく包んで温めて差し上げます!」
アルクェイドに抱き付いて眠っている志貴の背中を優しく抱きしめる。
「・・・シエルの顔が凄く近くにあるのは気にくわないんだけど・・・」
「それはわたしも同じです。でも遠野さんの温もりを感じながら眠れるのです。貴女が側にいる事実なんて些細な事です」
「そうね。わたしもそう思うわ」
互いにニヤリと笑うと互いに目を瞑った。
アルクェイドとシエルが目を覚ました時、二人は仲良く隣り合って眠っていた。
そして、
何故か床でシオンと志貴が抱き合って眠っていた。
更に、
買ってきた酒が半分程無くなっていた。
酒を誰が飲んだのかは誰にも分からなかった。