「っあっ!!」
胸倉を捕まれた志貴は軋間の豪腕によって投げ飛ばされる。
初めのうちは善戦していた志貴だったが、軋間の一撃を受けまいと動き回る志貴と同等の速さを以て動く軋間。
先にスタミナを切らせたのは志貴だった。
切り札である眼を使わずに戦っていたため、軋間にこれと言ったダメージを与える事が出来ず、僅かな隙を突いた軋間に投げ飛ばされたのだ。
「───まだ経験が足りないか・・・」
軋間はそう呟くと志貴に背を向け、屋敷へと歩いていった。
其れは在りし日の・・・
其れは不幸な偶然が重なった結果だった。
秋葉と軋間の面会時間が遅れた事。
志貴の貧血による学校の早退。
秋葉と軋間の面会時間の遅れは約半時間。
志貴の帰宅は予定より2時間も早かった。
そして────軋間を見た瞬間、志貴は軋間に襲い掛かっていた。
地面に強か打ち付けられた痛みに顔を歪めながらも志貴は何とか立ち上がる。
「ふっ、ぅ・・・・」
息を深く吐く。
全身の痛みを何とか息を吐く事で散じさせる。
と、
軋間の足が止まった。
「─────何故、眼を使わなかった?」
「・・・わから、ない。衝動的に襲ったのは謝るけど」
「構わん。退魔衝動は抑えられるようなものではない。特に七夜ならば」
「え?、七夜の事────知って」
「・・・・」
再びゆっくりと歩き出す軋間。
聞かなくても分かっている。
遠野が七夜を壊滅させた事。
七夜の最後の生き残りという意味を。
遠野を恨むつもりはない。
が、ただ知りたかった。
「・・・親父は、強かったですか?」
その声は軋間に聞こえたのか、軋間は再び足を止めた。
「───ああ。人の技のみで互角にやり合えた・・・」
そして生きている事、生の実感を刻みつけた人間───
志貴は軋間から何か感じ取ったのか目を閉じると小さく首を振った。
「充分です。ありがとうございました」
「────そうか」
軋間は三度歩を進め、次は止まることなく屋敷の中へと入っていった。
志貴は側の木陰に腰を下ろすと深く息を吐く。
「親父も・・・同じか」
感情を一片たりとも見せなかった軋間が懐かしむような表情をしていた。
それだけで充分だった。
「志貴さんっ!?」
琥珀が救急箱を持って志貴の元へと走ってきた。
「琥珀さん?」
「軋間さまが手当をするようにと・・・」
琥珀はそう言いながら志貴の治療を行う。
志貴は琥珀から軋間について色々聞く事が出来た。
手当が終わり、志貴は立ち上がる。
軋間に一片だけでも感情を刻み込んで散った親父。
アルクェイドに感情を生きて刻み込んでいく俺。
「───子は親に似る、か・・・」
「何か仰いましたか?」
「独り言。琥珀さん、今日の夕飯は何かな」
「秘密です」
救急箱を抱えて歩き出す琥珀。
志貴はカバンを拾うと遠野の屋敷を見詰め、そしてその側の林に目を向ける。
暫く林を見詰めた後、志貴は小さく頭を振って琥珀を追いかけた。