彼女は俺の部屋へと抱き上げたまま向かう。
階段なんかも普通に俺を抱いたまま上っているし。
さっきの秋葉の様子を見て精神的に疲れすぎてしまったせいか、余計に体が怠く感じる。
「志貴、辛いか?」
彼女に嘘を吐いてもどうせバレる。
なら正直に言っておこう。
「・・・・・うん」
「そうか。だが、今日はもう少し頑張って貰うぞ?」
「え?」
トテツモナク、イヤナヨカンガシテキマシタヨ?
常にはない日常:志貴の就寝
「あ、紫姫さん。志貴さんもご一緒ですか」
見られたくない所を見られたくない人に見られてしまった。
見回りをしていた琥珀さんと出会してしまったのだ。
「ああ。志貴がガス欠で倒れたので私がこうして運んでいる」
「あらあら、仲の宜しいことで・・・・良いなぁ、わたしも翡翠ちゃんをそんな風にだっこして・・・・・・・」
あ、琥珀さんのスイッチが入っちゃったよ。
ニヤニヤ笑いながら何もない所に向かって話し出した。
「翡翠ちゃんが謝ること無いのよ?そうだ!翡翠ちゃん。今夜はわたしと一緒のお布団で寝ましょう!」
だんだん声が大きくなってきた。
「───いくぞ」
「放っておく気か?」
「大丈夫だ。後十数秒で制圧される」
そう言って彼女は少し早足で歩き出した。
そして部屋の前に着いた時、
「姉さん、お覚悟を」
「翡翠ちゃ〜ん・・・・何ですか?その業務用ポリバケツは・・・」
「姉さんを入れるための物です」
「まさか!またですか!?」
琥珀さんの悲鳴が聞こえ、もの凄い打撃音のラッシュが聞こえたかと思うと、ボゴンという音がした。
ズ、ズズズ・・・・
「どうやら片付けが終わったようだな」
平然と言う彼女に俺は少し恐怖した。
ガチャッ
俺を片手で器用に抱きかかえ、部屋のドアを開ける。
逃げることもできない。
そんな気力も既にない。
トサッ
彼女はソッと俺をベッドに寝かせた。
「怯えるな・・・・お前に嫌われるのは本意ではない。それに、疲れ果てているお前を襲った所で何になる」
「でも、さっき『今日はもう少し頑張って貰うぞ?』って」
「ああ、あれか。あれは着替えと傷の治療のことだ」
「・・・・・・・」
そっか・・・安心した。
ホッと一息吐く。と、
彼女は俺の着替えをすぐ側に置き、
何故か俺に馬乗りになった。
「!?!?」
「着替えだ」
「いや、自分でできるから!!」
「些細なことだ。力を抜け」
「嫌だ!自分でできるから!!」
「抵抗すると・・・・・恥ずかしい思いをするぞ?」
「ぇ?」
彼女はニッと笑うとスススッと上体を倒してくる。
つまりは
俺に覆い被さるように───抱き付いてきた。
更に、
「・・・・こんな所に擦り傷が」
そう言いながら俺の左頬に顔を寄せ、
舐められた。
「〜〜〜〜〜〜!!!」
ビックリしたなんてもんじゃない。
心臓が捕まれたような気がしたくらいだ。
「志貴の味だ」
「・・・・君も同じ志貴だったじゃないか」
何とかそう言い返す。
「ああ。だからこんな事はできなかった・・・・自己愛にも程があるな」
彼女は耳元でそうささやき返す。
ピッタリと密着している体。
あの、胸が胸に当たっているって言うか、押しつけられてますが・・・・
「心音が早くなっているな・・・・」
クスクスと笑う彼女。
やっぱり遊ばれている。
「さて、抵抗すると恥ずかしい思いをさせようと思うが、抵抗する気は?」
鼻が触れるかどうかと言う至近距離で彼女が問うてきた。
「────もう、充分に恥ずかしいです」
きっと俺の顔は真っ赤だろう。
ああ、もう何で俺はこんなお姉さんっぽい人に何も言えないんだろう・・・・
自分の気弱さに泣きたくなる。
────まぁ、朱鷺恵さんや先生や先輩、イチゴさん・・・みんな俺が何を言っても聞かない人達だからなぁ・・・
それを思うとすぐに諦めの境地に達することができた。
「可愛いぞ。では着替えを手伝ってやろう」
そう言って彼女は俺から降りた。