「も、やめ・・・・・んんっ!」

下ろして欲しいと懇願したが、彼女はそれを許してくれない。

それどころかお尻を撫でられた。

―――これってセクハラじゃ・・・

「諦めて私に身も心も委ねろ」

や、そうしたら何されるか分からないし・・・・・

そう言いたかったが、言った所で状況が悪化するだけだと判断し、諦めた。

 

 

常にはない日常:紫姫と志貴

 

 

「はぁ、はぁっ・・・・」

「ふ・・・・可愛いぞ、志貴」

散々弱いところを苛められて息も絶え絶えな俺に彼女は軽い口付けをする。

「もう、苛めるな・・・・」

「苛める?苛めた覚えはないぞ」

そう言いながら尾てい骨辺りを撫でる。

「〜〜〜〜」

もう、生殺しというか、何というか・・・・・

頭がグルグルする。

「着いたぞ」

彼女はそう言って立ち止まる。

大きな門扉。

遠野の屋敷の門扉だ。

「開けるのも面倒だな」

彼女はそう言って、

ダンッ

跳んだ。

 

 

「うわっ、あああああ!」

「喚くな。舌を噛むぞ」

彼女は短くそう言うと空中で俺を離した。

「っ!」

慌てて空中で体制を整えようとしたが、離された高さがあまり高くなかったことと、態勢があまりよくなかったことが災いしてうまく着地出来そうにない。

強制的に体を捻り、猫のように着―――――

「!?」

下に、彼女が待っていた。

「まったく・・・」

彼女はそう呟き半歩下がると、着地しようとした俺の左側を掴み、下回転で回すように押した。

「うわぁっ!?」

グルンと視界がまわる。

そして柔らかな衝撃がし、

「良い判断力だ」

塀を越える時同様、彼女の腕の中に収まっていた。

スピードもパワーも技術力も完全に負けている。

「さぁ、皆が待ち侘びているぞ」

ニッと口元を緩めて笑みを作ると俺を抱き上げたまま屋敷へと歩を進めた。

 

 

「お姉さま!?・・・兄さんも」

屋敷に入って聞いた第一声は秋葉だった。

お姉さまって・・・・七夜の事?

ついでっぽい言い方の兄さんが俺の事だから間違いはないだろう。

「志貴がガス欠で倒れたのでな」

「もう、兄さんったら迷惑掛けるのが得意ですね」

目を細めて笑う秋葉。

何か、恐い。

「いや、俺は平気だから・・・・」

「要らぬ無理をするのは志貴の特技だからな」

七夜から逃げようと体を動かした瞬間、また指先で尾てい骨をなぞられた。

「!!!」

声に出すことも流石に出来ないから思いっきり顔を顰める。

散々セクハラされてちょっと精神的に参ってきてるよ、俺・・・

「そっ、そうですね・・・・それでいつも私達に迷惑をかけているのですから」

秋葉はそれを体調が思わしくないと勘違いしたのかそう言い返す。

それに、そう言われたら何も言い返せない。

――――でも、何故だろう。

秋葉の顔が真っ赤だ。

と、

ギュッと七夜が俺を抱きしめる。

「さて、部屋に連れて行ってやろう」

謀られている事が分かっていても何も言えない俺と、何も知らずに騙されている秋葉。

心は痛いがセクハラされていることがバレる事の方が痛い。許せ!

心の中で謝る俺。

だが、

「――――ああああ・・・・兄さんがあんな表情をするなんて」

なんか、途轍もなく聞きたくない台詞が聞こえた気がする。

気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ気のせいだ!!

そんな事秋葉が言うわけ無いじゃないか!秋葉はあんまり汚れてないお嬢様なんだぞ!?

────後輩に腐女子がいて、巻き込まれて腐ってしまっている可能性は否定できないが・・・・

「気のせいじゃないぞ。確かに志貴の顔は秋葉を悩殺するのに充分な破壊力があった。それに、秋葉は充分腐女子だ」

微笑みながら言う七夜。

お願いだから俺の心の叫びを読みとらないでください・・・・・

「・・・・・・・・嬉しくない。全っ然嬉しくないよ・・・・」

俺の泣き言を無視して七夜は俺を抱き上げたまま部屋へと歩を進めた。