「あ、お邪魔してます」

玄関を開けるとエプロン姿の有間が立っていた。

「ん」

あたしは素っ気なく頷き、中に入る。

「あの、イチゴさん」

「ん?なんだ?」

「お夕飯は、皿うどんでも構いませんか?」

「ああ。食べられればいい。有間の料理は何でもうまいからな・・・アイツはどうした?」

「部屋で転がってますよ」

苦笑しながらそう言う有間。

あたしはそんな有間が結構気に入っている。

 

 

 

今できる事

 

 

 

「お前・・・さっきのは酷いと思うぞ」

有彦が脇腹を押さえながら降りてくる。

「何言ってんのさ。罰ゲームはあれだけだろ?なのに襲いかかってくるから迎撃しただけじゃないか」

打たれ強い愚弟がまだ引きずるダメージとは・・・

あたしの関心を余所に有彦が有間に更に絡む。

「そこに愛は無いのか?」

「無いよ」

秒殺だった。

「まったく・・・・」

怒ったような、呆れたような顔の有間にあたしは首を傾げる。

「有間。こいつに何かされたのか?」

「いえ・・・あの、ちょっとした罰ゲームで・・・・」

あまり聞いて欲しくないのだろう。有間は言いにくそうにしている。

「姉貴。こいつの女装は恐ろしく破壊的だぞ」

─────一瞬、部屋の空気が固まった。

「・・・・油を浴びるのと極細に切り刻まれるのとタコ殴り・・・どっちが良い?」

割と本気の声だ。

「タコ殴り以外選択できねーだろ!」

そして本気だと気付いた馬鹿の叫びが耳障りだ。

良い薬だろうが・・・まあここで割り込んでおこう。

「落ち着け有間。有間が手を下さなくてもあたしが処分しておく」

「え?あ、あの・・・」

「有間はそのまま夕食を作っておいてくれ。有彦。アンタの部屋で話を聞こうじゃないか」

「姉貴・・・なんかいつもより四割り増しで怖いのですが?」

「それは間違いだ。今のあたしは八割り増しで怖いぞ」

「マジですか!」

逃げようとする有彦を捕まえ、こいつの部屋へと引っ張っていった。

 

 

暫く説教し、鉄拳制裁の後に隠し持っていたデジカメのメモリーカードを没収しておいた。

もちろん強制的に有彦を女装させ、それを写した上で、だ。

食事の際にそのことを伝えると、本気で感謝された。

今日は泊まる予定ではなかったらしく、夕食を食べて暫く後に帰った。

有彦はいつも通りどこぞへ遊びに出た。

「さて───」

パソコンを立ち上げ、メモリーカードを差し込む。

「いったいどんなものを撮ったんだ・・・・」

画像を開く。

───────────

そこには恥ずかしがるかわいい少女が写っていた。

「・・・む?」

それが有間であることに気付くのに時間を要した。

どこからあんなメイド服を調達してきたのか。

どからかあんなウィッグを調達してきたのか。

それは問いつめなければならないことだが・・・・・

「問題ありだな・・・・」

有間が似合いすぎるというこの事実がそれ以上の問題だ。

拙い。

そっち系の世界に填ってしまいそうだ。

あたしは気を落ち着かせるために煙草を吸う。

そして画像を消す。

「────一応、持っておこう」

そう呟きながらデータをすべてファイルに保存する。

アイツも女装の写真をこっちが握っている以上有間に変な悪戯はできないだろう。

姉のように慕ってくれている有間を困らせたくはない。

紫煙を吐き出し、パソコンを終了させる。

「自分のやりたいように───か」

自分のしたいように。

少なくとも愚弟はそれをやっている。

学生から社会に出たとき、それができるかはあいつ次第だろう。

しかし、有間は今の状態をそのまま通すことができるだろう。

有間は今自分がしていることに満足している。

今現在精一杯生きている。

初めて見たときは儚げに見えた有間も今は・・・

今あたしはそれができているだろうか。

煙草を灰皿に押しつけて消し、ため息を吐いた。