───よかった。士郎くんと一線を越えなくて・・・

横でスウスウと眠っている士郎くんをそのままに僕はソッと布団を抜け出した。

「ご苦労様です」

部屋を出るとライダーさんがお茶を用意してくれていた。

「士郎・・・士麻さんのガス抜きは終わりましたよ」

「貴方でなければあのようにはならないでしょうから」

ライダーさんは一息吐いてお茶を俺に差し出してくれた。

 

 

 

疾く、副うために

 

 

 

ふう、お茶が美味しい。

「みなさんお元気ですか?」

「ええ。桜の妄想・・・暴走が少し難点ですが」

「そうですか。よかった・・・ライダーさんも元気そうですし」

「えっ?」

ライダーさんが驚いたような顔をした。

「?」

「いえ、その・・・私はこれでもサーヴァントで・・・」

「知ってるよ。それを言うならうちのみんなも充分規格外だし」

「────愚問でしたね」

「体の事じゃなくて、ライダーさんが少し無理してるんじゃないかなって心配していただけだから」

「そうですか」

「ここの人達はみんな優しく受け入れてくれているようでホッとしてるんだ」

安堵の息を吐く。

役割を演じる事と逃げることは紙一重。

でもライダーさんはそれを見事にこなしている。

「あの、志貴」

「ン?何?」

「貴方は・・・何故そのようなことを」

ライダーさんの問いはよく分かる。

「何となく、知っているからかな・・・僕の妹とか、知り合いにそんな感じの人がいるから」

「・・・・・・・私みたいな、ですか?」

「ライダーさんも、ガス抜きした方が良いよ?」

「・・・えっ?」

ライダーさんが固まった。

 

 

志貴も人が良いと思う。

旅行でこの地に来て聖杯戦争に巻き込まれただけなのに、気遣ってわざわざここまで足を運んでくる。

「よかった・・・ライダーさんも元気そうですし」

「えっ?」

突然私に話の矛先が来てビックリしてしまった。

首を傾げられ、ジッと見つめられる。

志貴は自覚していないが、その動作は恐ろしく可愛い。

「いえ、その・・・私はこれでもサーヴァントで・・・」

顔が熱くなるのを自覚しながら何とかそう答える。

志貴はそれを苦笑混じりに受け答え、お茶を一口飲む。

「体の事じゃなくて、ライダーさんが少し無理してるんじゃないかなって心配していただけだから」私のことはお気遣い無く・・・と言いたかったが、志貴のフニャッとした笑みを見てそれを呑み込んだ。

「貴方は・・・何故そのようなことを」

心配するのか、それが知りたい。

何故そこまで私達のことを気遣うのか。

何故・・・・

「何となく、知っているからかな・・・僕の妹とか、知り合いにそんな感じの人がいるから」

見透かされている・・・

そう思った矢先、

「ライダーさんも、ガス抜きした方が良いよ?」

微笑みながらそう言った志貴を見て、私は固まってしまった。

 

 

 

「僕の妹がしているみたいに、膝枕する?」

ポンポンと膝を叩く志貴。

「え?」

「今この時だけ僕をお姉さんと思って甘えてもいいよ」

「え?・・・・ええっ?!」

驚きと迷いの混じった顔のライダー

そしてしばらくの沈黙。

「・・・・・・・・・・」

「どう?」

「・・・・・・あの、少しだけ、甘えても・・・」

「うんっ。さ、膝枕してあげるよ」

ライダーの台詞に志貴は満足そうに頷き、もう一度膝をポンと叩いた。