「ハァ、ハァ・・・ハァ────」

肺は酸素を求めているが呼吸はその要求を満足に答えることが出来ずにいる。

一時間近くアスファルトジャングルを跳び回り、逃げ回った。

いくら七夜の力を引き出せても体はそこまで強くはない。

戦闘。しかも短期決戦なら10の力をフルに出し切るが、これは逃走なので逆だ。

出来る限り力を温存しつつ逃げ切らなければならない。

しかし・・・・・

相手は七夜。俺の分身。女だけど。

体力は化け物。スキルは俺と同じかそれ以上の七夜の力を保有している。

それでも俺が捕まらなかったのは────相手が俺を捕まえようとはしていなかったからだ。

 

 

常にはない日常:七夜/志貴の日常

 

 

「大丈夫か?あまり無茶をするな」

心配そうな、とても優しい声。

七夜は追いつめられた俺が無茶をしないようにある程度距離を保ちながら付いてきていただけだった。

「ハァ────降参。も、七夜の好きにしてくれ」

「ああ。では」

七夜は俺に近付き────

俺を軽々と抱き上げた。

「今の私の願いはお前の体を休めることだ」

そう言って歩き出す。

「ちょ!ちょ、っと!!」

「何だ?」

「いや、この体勢はどうかと・・・・」

「抱き上げられるのは嫌か?」

いや、一応俺なんだが・・・・・・・・・そんな顔されると、困る。

七夜は俺を抱き上げたままそっと俺の頬に自身の頬を触れさせる。

「陽炎のようにこの目の前から消えてしまうのではないかと不安になる・・・いつ消えてもおかしくない儚い命なのだ。お前の側には常に誰か居なければ」

「俺、そんなに脆くはないと思うけど」

「白黒両姫の加護を受けているお前だが、それがあってもまだ半人前の生命力なのだ」

う・・・・言い返せない。

小さく溜め息を吐く七夜。

その吐く息は僅かに震えていた。

「なあ、俺達、兄姉みたいなもの・・・・かな」

「そうだな・・・双子のようなものと考えても良いだろう。だが、お前が死ねば私も死ぬ」

「え?!」

「そこまでする必要はなかったが、私がそう願い、両姫もそれを承諾してくれた」

「・・・・・・」

「私はお前と共にある存在。光と陰なのだから当然だ。だからこそ二極の理に則って雌雄一対となったのだからな」

「・・・・・・」

言葉も出ない。

「どのような位置でも構わない。私はお前の側にいる。それだけは分かって欲しい。いや、お前が分からずとも私がそうする」

「・・・・強引だな」

「ああ。これぐらいしなければ愚鈍で朴念仁なお前は気付きもしないからな」

「む、」

まさか自身にそう突っ込みを入れられるとは思わなかった。

「・・・・愚鈍で朴念仁か?俺」

「ああ。私が気付いていてもお前が気付かない・・・いや、気付かないようにしているからな」

「そっか・・・君がそう言うならそうかも知れないな」

笑うしかない。

でも、そこまで回復していない。

更になんだか意識がボーっとしてきて・・・・・

「志貴」

優しい声。

すぐそこにあった瞳が閉じられて、顔が近付いて・・・・

「・・・・ん?・・・・・・・んっ」

しまったと思った時には遅かった。

しっかりと逃げられないようにホールドされ、口腔内を彼女の舌が浸食していく。

「んむっ・・・・ぅ・・・・ふ・・・・・ぁ」

何故、彼女はこんなに巧いのだろう。

頭の中が真っ白になっていく。

「――――可愛いな。」

「・・・・・・っ!」

クスリと微笑する彼女を見て顔が熱くなっていくのが分かった。

気恥ずかしさもあって彼女から逃げようとしたが、

「ふぅ・・・・っ、ぁぁ」

弱い箇所を撫でられ、思わず声が出てしまった。

「お前の弱点はすべて知り尽くしている」

笑みを深める彼女。

その笑みに俺は完全な敗北を悟った。

「さあ、屋敷に帰ろう」

そう言って彼女は俺を抱き上げたまま屋敷へと歩き出した。