「やあ、士郎くん」

庭掃除をしていた少女はその声を聞き顔を喜びの色に染める。

「志貴さん!」

門口に立っていた女性に駆け寄る。

「久しぶりだね。元気だった?」

「はいっ!」

二人の少女は手を取り合い、再会を喜んだ。

 

 

 

疾く、副うために

 

 

 

「そうかぁ・・・・そっちも騒がしい日々を過ごしているんだね」

「志貴さんの所に比べれば聖杯戦争だってあの方々の痴話喧嘩レベルですよ」

縁側でお茶を飲みながらくつろぐ。

幼いあの日。オヤジがわたしの体内に鞘を埋め込んだ時、わたしの体は男から女へと形を変えた。

そして隣に座っている志貴さんも、同じように幼い頃に生死の境を彷徨い、わたしと同じように男から女になったらしい。

「みんなが出払っている時に来れてラッキーかなぁ」

アハハと軽く笑う志貴さん。

「士郎くん・・・・ッと一応士麻くんと言った方が良いかな?」

「いえ、二人の時はそのままが嬉しいです」

「そっかな・・・でも、その方が僕としても嬉しいな。二人の秘密みたいで」

フニャッと笑う志貴さんにわたしの心臓は握られたように苦しくなった。

────ううう・・・・文句なしで可愛い・・・・やっぱり志貴さんは可愛くて綺麗だ・・・・

聖杯戦争の時、颯爽と現れてランサーを退けた志貴さん。

その後色々あって、わたしの正義に対する妄信的な想いを崩した人。

初めは酷い人だと思っていたけど、確かに志貴さんの言っていることは正しかったし、わたしの行った結果、あと少しで大切な人達を失う所だった。

「志貴さん」

「ん?なに?」

「お姉さんって、やっぱり呼ばせてくれませんか?」

「う?」

どらやきくわえて小首傾げないでください・・・・凄いツボに・・・・・

志貴さん以外の風景が霞んだ気がした。

 

 

─────士郎くんは大丈夫そうだ。

穏やかな微笑みを浮かべる士郎くんを見て安堵した。

聖杯戦争。

士郎くんとの出会いは偶然。

アルクェイドさんや秋葉達から逃げるために国内逃避行を行っていた時に偶然助けたのが切っ掛けだった。

助けた直後に士郎くんを見てドキッとした。

迷いのない瞳。

綺麗な赤髪。

整った顔。

アルクェイドさんに遇った時に近い感じがした。

まあ、その後で士郎くんが目指しているものと士郎くんの危険性を知り、嫌われる覚悟で色々口出しした。

先生達から僕が習ったように・・・・

色々あったけど、士郎くんは僕の予想以上に成長してくれた。

でも・・・・

「志貴さん」

「ん?なに?」

せっかくお茶請けにって出してくれたどらやきがあるんだから食べなきゃ♪

「お姉さんって、やっぱり呼ばせてくれませんか?」

「う?」

────え?

まさか、また・・・まだ?

士郎くんの肩が震えてる。

マズイマズイ。ニゲロニゲロ・・・・

僕は本能に従って士郎くんから間合いを取った。

 

 

「お姉さん!!」

「ふふ〜っ!!」

士郎くんが飛び付いてきた。

僕は素早くそれを避け、三足の間合いを取る。

「お姉さま・・・・あの時みたいに・・・・わたしを抱きしめてください」

「む、むっ!む〜・・・・んっっくっ」

慌ててどらやきを食べる。

「───落ち着こうよ。ね?士郎くんのことは好きだし、惹かれる所もあるけど・・・あの人達みたいに暴走しないでくれると僕としては嬉しいんだけど・・・・」

「無理です」

「即答?!」

「今聖杯戦争が再び起きたらどんな手段を使っても勝ち残って志貴さんをわたしのお姉さまに・・・・」

「士郎くんが壊れた〜〜〜!!」

荒い息を吐きながら間合いを詰めてくる士郎くんに僕は心の中で滝のように涙を流した。

─────どうして僕の周囲はこんな人ばっかりなんだろうか。と・・・・・・

 

 

 

 

 

「────士郎くん。コレで満足?」

「あの、もう少しこのままで・・・・」

「士郎くん可愛い」

「は、はうっ・・・やっ!ぁ・・・志貴さん・・・・」

 

オチぬまま、終わる。