僕は個室に案内された。
そこは殺風景な部屋―――とは少し違った。
環さんが言うにはこの個室は僕が使っても良いと言われているらしい。
色々込み入った事情を酌んでくれたようでとても有り難い。
きちんと設備は整っていて住み心地はとても良さそうだった。
そして何よりも窓から見える外の景色が僕にとってとても心を和ませた。
「案内してくれてありがとう」
案内してくれた環さんにお礼を言うと、
「い、いえっ、当然の事ですから!───失礼します!」
環さんは顔を真っ赤にしてブンブンと頭を振って走っていってしまった。
───忙しかったのかな・・・だとしたら忙しいのに悪いコトしちゃったかなぁ・・・
僕は少し反省しながらベッドに腰掛ける。
う〜ん・・・とても格別な場所を提供してくれたのは嬉しい。
でも、僕としてはここから逃げたいんだけどなぁ・・・一週間も居るわけにはいかない。
七夜くんの問題もあるし・・・そっかぁ。秋葉に言ってないからなぁ・・・
僕は暫くウンウン唸っていた。
学園前で話し合いを行っている男女二人組。
片方はお人好しそうな青年。
片方は和洋折衷の独創的な格好の女性。
そんな二人組がボソボソと言い合いをしていた。
「正面突破の何処がいけない?」
女性はチロリと青年を見る。
「だからそうすると色々問題が起きるから止めた方が良いと思うよ」
青年は内心冷や汗をかきながら女性を止める。
「しかしそう易々とは入れまい。ならば・・・」
何か行おうとする女性に対し青年は小さく溜め息を吐き、カバンから一冊のファイルを取り出す。
「ほら、これが所長達に見せていないやつ」
そう言って青年は女性にファイルを手渡した。
「む?・・・・・・ぉ」
どうやって進入すべきか思考を巡らせていた女性はその開かれたファイルを見る。
そこには浅上女学園の制服を身に纏い、恥ずかしそうな顔でウサギの人形を抱きしめている少女の姿が映されていた。
「はぅぅぅ・・・しーちゃんは可愛いなぁ・・・」
それを見た女性は顔を真っ赤にし、完全に動きを止めた。
「───これは大問題なんですっ!」
遠野の屋敷、応接間で琥珀が拳を高く掲げてそう叫んだ。
そしてその周りには4人の女性がのんびりと椅子に腰掛けていた。
「確かに・・・大問題ですね」
ムムッと小さく唸るシエル。
その横では興味なさそうにシオンとアルクェイドが座っていた。
「一週間我慢すれば済む問題なのでは?」
「志貴が一週間で戻ってくるって言ってたからわたしは大人しく待つつもりよ?」
「お二人とも・・・重度の志貴さん症候群のくせに一週間も我慢出来ますか?」
琥珀が暗い笑みで二人を見る。
「何よその病気は・・・」
「また怪しげなモノを創作しましたね・・・」
「ご存じない?───ならこのチェックシートで確認してください」
そう言って琥珀はどこからともなく二枚のチェックシートを取り出し、二人に手渡した。
「全十問・・・たったこれだけではその病気の傾向も分からないのでは?」
「ふふふ・・・この問題で全て分かります」
シオンのジト目に琥珀は勝ち誇ったように笑った。
「因みにわたしと翡翠ちゃん。シエルさんは重度の志貴さん依存症ですので3日以上触れ無ければ禁断症状を起こしかねません」
「「・・・・・・」」
アルクェイドとシオンは共に顔を見合わせる。
「どう、だった?・・・」
「パーフェクトです・・・貴方は?」
「わたしも・・・全部マルだった・・・」
「「「・・・まさか全部にマルをつけるなんて・・・」」」
───重度どころか末期症状に達していたアルクェイドとシオンだった。