「今日は商売繁盛だなぁ・・・」
少し物騒かもしれないけど医務室が一杯であることは事実だし、三人のうち二人はただの眩暈なだけだから・・・
未だに二人とも幸せそうに眠っている。
眩暈なのに幸せそうってのは・・・・・・何故だろう・・・
僕は蒼香ちゃんを寝かせて医務室から出てちょっと考えてみた。
―――考えたところでまともな答えが出るとは思っていないけど。
自分の心に突っ込みを入れて思いっきり落ち込んだ。
「あうっ・・・僕ってお馬鹿?」
突っ込めば突っ込むほど泥沼に落ちていくことを自覚しながら沈んでいるみたいな気がした。
そう、それは沈んでいく逃げ場のない船のような・・・自分の身と知らずに喰らっている蛇のような・・・
「はぁ・・・」
溜息を吐くと幸せが逃げていくと聞いたことがあるけど、今くらいは吐いても良いと思う。
窓から差し込む日の光は眩しくって、でも窓から見える緑の風景は気持ち良くって、僕は目を細めて外を眺めていた。
「あ、あの、遠野先輩」
暫くしてすぐ横から申し訳なさそうに環さんが声をかけてきた。
「あ、環さん。ゴメンね、途中で勝手な行動しちゃって」
「いえ・・・あ、お部屋までご案内いたします!」
わざわざ保健室まで引き返して貰ったのに環さんはブンブンと首を振った。
女子校って少し怖いイメージがあったけど、みんな良い人みたいだ。
僕って結構運良いなぁ・・・
そんなことを思いながら僕は環さんの後をついていった。
あるビルの一室で女性二人がファイルを見ながら薄ら笑いを浮かべていた。
「さて、飛んで火にいる何とやら・・・母校に志貴がいるなんてな」
「ふ、ふふふ・・・日頃の行いの賜物でしょうか」
写真貼付のファイルに熱い視線を送っているのはこのビルのオーナーである蒼崎橙子とその弟子である黒桐鮮花だった。
「あ、あの・・・二人とも落ち着いてくださいませんか?特に橙子さん。その目で志貴くん見たら泣くと思いますよ?」
怪しげなオーラを漂わせているただ一人の上司と妹を止めようと頑張る幹也だったが、
「何を言っても無駄だと思うぞ」
ソファーに寝転がっていた両儀式の言葉に幹也は恨めしげな顔をする。
「それは分かっているけど・・・一応止めないと」
「無駄だ。それよりも───」
式は起きあがると幹也の側に行き、耳元で囁く。
「志貴に知らせに言った方が良いと思うぞ。止めるのが無理なら心の準備をさせておいた方が良い」
「───たしかに」
幹也は頷くと、
「所長、僕と式は少し出ます」
「出るのか?」
橙子が顔を上げた瞬間、
「あ、資料の追加分です」
幹也は絶妙のタイミングで別のファイルを二人の前に出した。
「む?───おおおお・・・」
「そんな・・・こんな可愛い姿で一週間なんて」
「──────何を、見せた?」
「いや、強力な写真と体験入学の詳細についてちょっと、ね」
幹也は微苦笑し、出口に向かおうとした。が、
「少し、見てくる」
「わ、待ってよ。後で別取りのモノをあげるから」
「別取り?」
「望遠レンズで今朝撮った志貴くんの写真」
幹也は小声でそう言って式の手を取り、出口へと向かう。
「仕方ない。後で見るとしよう」
小さい溜息を吐き式は幹也に従った。
未だファイルを見て悶える二人を後目に二人はビルを後にした。