あの頃のわたしは笑うこともなければ感情を表に出すこともなかった。

 

あの頃のわたしはアレを倒して元に戻った暁には命を絶つつもりだった。

 

 

 

 

 

そう、

 

 

 

 

 

―――死にたかった

 

 

 

 

 

鐘の音と銃声

 

 

 

 

 

「祝福と弾丸。取るならばどちらを取る?」

第七司教となってメレムに真っ先に問われた。

その時わたしは迷わずに答えた。

「その弾丸でわたしを殺せるのなら、それこそがわたしにとっての祝福です」

死ぬ事が出来れば他には何もいらないのだ。

そう、

死ねれば何も───

その時メレムは笑いながら拳銃を渡し、こう言った。

「祝福の鐘と戦いの鐘は同じものだ。その意味が分かるようになれば君は幸せになれるよ」

 

 

 

 

「死ぬわけには・・・いかないんですっ!!」

今わたしは並々ならぬ生への執着にあふれている。

目の前にいる死者の群れを前に嫌っていた魔術を駆使し、敵を殲滅する。

100や200という数ではない。

そこは死都。

わたしは狂ったように黒鍵を投げ、火葬式典で周囲一体を焼き尽くす。

どんな事をしてでも生き延びる。

遠野くんにそう誓った。

傷付いても勝手に修復しない体がもどかしい。

あの時の自分がとても贅沢な状態だったと思ってしまう。

どんな事をされても死ななかった自分。

それに甘えていた。

「くっ!」

疲れがピークに達している。

援軍は・・・まだ来ない。

撤退しかないのか?

いや、まだいける。

しかし、このままだと・・・

「っ・・・」

逃げる体力だけは残しておこう。

わたしは最後の黒鍵を投じて走った。

 

 

「は、は、はぁ、はぁ・・・」

いくら魔術で肉体強化を図っても限界がある。

そしてここは敵の陣地内。

既に退路は断たれていた。

少し休まなければ力を行使する事も出来ない。

完全に手詰まり。

昔のわたしなら兎も角、今のわたしには半分を倒すのも精一杯。

───それも、捨て身で・・・

「何とか・・・ここまで・・・」

身を隠せそうな場所にたどり着き、一息吐く。

満足に体が動かない。

それが生きている証拠。

何よりも今は・・・ゆっくり休みたい・・・

そう思った矢先、

ドォォォンッッ

すさまじい音と振動が地面を揺らした。

「っっっ!!!」

わたしは最後の気力を振り絞って立ち上がる。

「あれ?シエル生きてたんだ」

「な──────」

何故、彼女が・・・?

「とりあえず全部片付けたから。志貴に感謝しなさいよ?志貴ったらあなたの事心配してしょうがないからわざわざわたしが来たんだから」

アルクェイドはそう言ってわたしを睨む。

「へへ〜でも一週間朝ご飯作りに来てくれるって約束してくれたからわたしは得したかな?」

睨んでいたはずのアルクェイドが急にニッコリと笑った。

「そうですか・・・遠野くんが・・・」

アルクェイドから遠野くんの名前を聞いた瞬間に全身の力が抜けていった。

「ちょっ!シエル?!」

「少し・・・寝かせてください・・・」

「───しょうがないわね」

アルクェイドがわたしを抱き上げる感覚がした。

───目が覚めたら、遠野くんと一緒に食事を・・・

意識が落ちる瞬間までわたしは遠野くんの事を思い続けていた。

 

 

 

 

 

「先輩、起きてください。───まったく・・・あ、こら、アルクェイド」

「だってシエル起きないからわたしがシエルの分食べる」

「あ〜待て待て。もうすぐ起きると思うから」

「え〜そんなのどうだって良いじゃない。早く食べないとさめちゃうよ?」

「んっっ・・・・・・」

「先輩。おはよう」

「───?遠野、くん?」

「先輩、お疲れさま」

遠野くんがそう言ってわたしに微笑みかけてくる。

───わたしは、鐘の音を聞いていたのでしょうか。

戦いの鐘ではなく祝福の鐘の音を聞けたのでしょうか。

答えは───もう少し先にあるのかも知れません。