「そ、その・・・それは・・・やらなければならないマナーなのか?」
「え?」
真っ赤な顔で箸を握りしめて朱い月が俺に聞いてきた。
流れに身を任せ―――
「イヤ別に・・・そんな訳じゃないけど・・・」
返答に困ってしまう。
悪気があってやったわけでもなければ何となくの行為だっただけに説明しにくい。
「そうだなぁ・・・何となく・・・かな」
「ふ、ふむ・・・何となくか・・・」
ぎこちなくだが朱い月は一応納得してくれた。
そして微妙に気まずい雰囲気の中俺達は食事を続けた。
「む?」
「な、何?」
朱い月が俺を見て僅かに眉を顰めた。
「い、いや・・・むぅ・・・」
どうしたんだろう。
―――俺を、ジッと見ているのは気のせいか?・・・しかも顔が真っ赤だぞ・・・
「くっ・・・」
朱い月が動いた。
席を離れ、俺の側に来ると俺の横に立ち俺の頭を両手でしっかりと捕まえた。
「え?!ちょっ・・・」
「動くな」
朱い月は僅かに背伸びをすると俺の唇に自分の唇を押しつけた。
イヤ、正確に言うと俺の下唇を朱い月が甘噛みした・・・と言った方が良いのか・・・?
朱い月の唇、柔らかいなぁ・・・って違う!
俺は慌てて朱い月から離れた。
「〜〜〜〜!!!」
声にならない声で抗議したが、
「―――?」
ふと、あることに気付いた。
それはやった朱い月本人もこれ以上ないくらい真っ赤な顔をしていたと言うことだった。
「何故、キスを?」
「イヤ・・・ものの弾みと・・・イヤ、そうではなくてだな・・・これは・・・その、何だ・・・そなたの唇にこれが付いておったのだ・・・」
そう言って朱い月は小さく舌を出し、舌の上にチョコンと乗っていたモノを摘んで見せた。
「あ〜・・・・・・そっか・・・」
イヤ、何とも、言葉にならないと言うか・・・
どうやら俺がやったことをそのまま真似したようだ・・・
「ありがとう。っと、それはティッシュに―――」
パクッ
「!!!!!!」
俺がティッシュで取ろうとした時、朱い月はそれをそのまま食べた。
「―――こうしたのは・・・そなたであろう?」
「いや、そうだけど・・・・・・」
「なら問題はない」
真っ赤な顔のまま朱い月はそう言うと席に戻って食事を再開した。
「ふぅ・・・・・・」
後片付けを終え、小さく一息吐く。
朱い月は暇そうにベッドの上で寝転がっている。
どうやらアルクェイドの記憶を元に動いているようだ。
さて―――どうしよう・・・
「志貴」
朱い月が俺を呼んだ。
「ん?なに?」
「その、アレと同じように・・・過ごしてみたいのだが・・・」
「え?!」
その台詞は、俺の思考を止めるのに充分すぎる効果を発揮した。